蒼 穹 2




  ロザリアと別れたその足で私邸には戻らずに幼き頃より片時も離れずに傍
に居たその人の館に辿り着く・・・。


「・・・コンコンッ」


キィと言うドアの軋む音と共に館の主が顔を出した。漆黒の髪が風でサラリ
と揺れる・・。


「クラヴィス」

「待ち兼ねていたぞ・・ジュリアス」


    そう言うとフワリと抱きしめ館に引き入れた。クラヴィスの部屋に入るとカ
ーテンが優しく踊っていた・・。まだ、春だと言っても夜の風は冷たい。


(・・・どうして)


  カーテンをぼんやり見つめていると肩に手が掛けられた。


「月の光を浴びていたのだ・・」

「何だ、月光浴などしてたのか・・」


  まったく、この者らしい・・


「フッ、嘘だ」

「なっ・・・」

「お前が来たら直ぐに分かるようにここから、ずっと見ていた」

     「バカ者、夜風はまだ、冷たいと言うのに・・躰を壊したらどうする。」

「それでも待っていたかったのだ・・お前を・・」


捕らえて離さない紫水晶の瞳が私を見る。何も言わなくてもお互いの心は一
つだった。瞳を閉じるとクラヴィスの唇が私の唇に重なる・・。幼い頃より対
としてずっと隣に・・傍に居たクラヴィス。幼き頃は共として、そして今は、
恋人として・・・。長き年月を過ごしてきた二人を運命と言う時間は静かに見
つめていた。・・・別れが二人を引き離そうとしていた。


「あっ・・・」


  そのまま、崩れるように床に倒れ込んむ・・。啄むようにしていた口付けは、
何時しかお互いを確かめ合うになっていた。



「・・っん。クラヴィス・・」

「どうしたのだ・・。ジュリアス」


  ジュリアスの瞳を覗き込むとその蒼空の瞳は揺れていた。


「・・・ジュリアス?」

「私は、明日聖地を離れなければならない・・・」

「・・・・」


それは、クラヴィスにも分かっていたことだった。ジュリアスとクラヴィス
が守護聖の中では一番、その地位に付いているのが長いからだ。守護聖と言う
関を一番に離れるのは、この二人のどちらかと思っていた。しかも、それは自分
が先だろうと思っていた・・・。それなのに・・


(ジュリアスが先とは・・・)


愛しいこの者を手放さなければならないなんて思いにもよらなかった・・・。


(ジュリアスがこの聖地を去る日を一日、一日怯えてきたと言うのに、・・明日
がもうその日なのか・・・)


「もう・・、もう、そなたとは会えない。会えなくなってしまう・・・」


  顔を擽るクラヴィスの漆黒の髪を一房握るとそっと口を寄せた。髪を握るそ
の手は震えていた・・・。


「そなたと離れたくない。サクリアや、守護聖など関係なく・・・ずっと、一緒
にいたい・・・」


それは、ジュリアスの心の奥深くにあった本当の言葉・・・。幼少の頃より守
護聖と成る可くとして生きてきたジュリアス・・。その言葉にクラヴィスは胸を
締め付けられた。


「この闇のサクリアが尽きる方法があれば、私は今ここでする・・。それで、下
界でお前と共にっ・・・」


  クラヴィスはそう言うとジュリアスを抱きしめた。


「独りになるのは嫌だ。クラヴィス・・。−−−−私をっ私を独りにしないでく
れ・・・」


  そう言うとジュリアスはその白き両腕をクラヴィスの首に回し今迄、堪えて
いた涙を流した。人前で涙を見せるなど恥としてきたジュリアスがクラヴィス
の腕の中で泣いていた・・。それは・・・、それは悲しい声を上げて−−−−
−−−。


 



誇りを司る光の守護聖ジュリアスは、−−−−泣いていた・・・・。





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