天使のあくび 3
            静寂を愛するクラヴィスの私室はシンと静まりかえり蝋燭の明かりだけで、部屋            を灯していた・・・。            「どうした?ジュリアス、入ってくるがいい・・・」             クラヴィスがそう言うがジュリアスは中々入ってこようとはしない。それどころ            かドアの半分から顔を出し中の様子を伺っている。            「・・・・だって、こわい・・・・」             クラヴィスはこう言われて始めて気が付く、何時ものジュリアスならば「暗い」            「湿っぽい」「不健康だ」と文句を言いながらも部屋に入ってくるのだが、これは            ジュリアスと言っても子供のジュリアスなのだ。暗闇が怖くて当然だろう・・・・。            「気が付かなくてすまなかったな・・・・」             自分では何年か振りに部屋の人工的な明かりを灯した。部屋の明かりは季節が冬            へと変わるため暖色系の暖かな色合いをしていた。ジュリアスは視界がハッキリし            て部屋の中の様子が分かるとおずおずと部屋の中へと入ってきた。            「私は何時も部屋に明かりは灯さない性質(たち)なのだ。まだ小さなお前では恐             ろしかろう気づくのが遅れてすまなかったな・・・・」             クラヴィスはジュリアスの金色の緩やかな波の中に指を絡ませて謝った。            「ううん、クラヴィスさまはくらいのがスキなの?」              「あぁ、そうだな。私にとっては落ち着く空間だ・・・・」            「ふ〜ん・・・・」             ジュリアスは納得したようにクラヴィスを見つめた。            「何か飲み物でもやろう、そこのソファーに座って待っていろ」            「はいっ」             ジュリアスは大きなソファーによじ登るように様にして座ると言うより埋もれる            ようにソファーに腰を下ろした。             クラヴィスは奥の部屋で飲み物を用意してジュリアスの座るソファーの前にある            テーブルにミルクを置いてやった。            「こんな物しか無いがないよりはましだろう・・・・」                         そう言って自分はジュリアスの横に腰を下ろした。             ジュリアスはと言うと・・・・             (ん〜!ん〜!取れないよ〜)             と必死に小さい掌を伸ばしていた。それもそうだろう、ジュリアスはソファーの            奥の方に腰を掛けてしまい子供の身体ではテーブルまで届かないのだ。起きあがろ            うと一生懸命に頑張るがふかふかのソファーに埋もれてしまって上手く動けない。                         (どうしたのだ?やはりミルクは飲まぬのだろうか・・・・)             何時まで経っても手の付けられない隣に置かれたカップを見ながらクラヴィスは            そう思っていた。             (誰かを呼んで甘い飲み物でも持ってこさせた方が良いな・・・)             「ジュリアス、何か他に飲みたいものはない・・・・か・・・・」             クラヴィスがそう言って隣を見れば幼いジュリアスが懸命に手を伸ばしミルクの            入ったカップを取ろうとしている光景が眼に入った・・・・             「クッ、すまなかったなジュリアス。お前の身長では届かなかったのだな・・・ミル              クはキライではないか?」             「うん、キライじゃない・・・」             「では、ほら・・・・」                       柔らかなソファーではまた何時体制を崩してミルクを零しかねないのでクラヴィ            スはジュリアスを膝の上に乗せてやり小さな掌にカップを乗せてやった・・・。すると            ジュリアスは余程喉が乾いていたのかゴクゴクと勢い良くミルクを飲み干した。             「もっといるか?」             「もういらない・・・・」             そう言ったジュリアスは喉が潤ったことで安心したのか【ふわぁ】と欠伸をした。             「なんだ?眠いのか・・・・」             「んぅ〜・・・・」             こすこすと眼を擦って眠いのを必死に堪えているようだ。              「疲れが出たのだろう、夕飯が出来たら起こしてやるからそれまで寝ていろ」             優しく頭を撫でてやるとまるで電池の切れたおもちゃのように“こてんっ”と眠っ            てしまった。クラヴィスは落っこちないように支えてやると手近にあったショール            をかけてやった。腕の中のジュリアスはすーすーと寝息を立て安心しきって眠りに            ついている。             ジュリアスの寝顔を見ながらクラヴィスは考える。                 子供の体温とは暖かいものなのだな・・・。一瞬触った時熱があるのだと思ったぞ、            身体もぷくぷくと柔らかくて少し手を握っただけでも痣が出来てしまいそうだ・・・。             ジュリアスと初めて出会ったのは5歳の時か・・・今のこれはあの時よりも幼いの            だな・・・あの者にもこの様な時があったとは・・・・違うな、この様な時はあの者には            なかった筈だ。ジュリアスは生まれる前から聖地への召還が決まっていたと言って            いたからな生まれた時から教育を受けていたと聞いている。今のこのジュリアスは            全くの子供だ。聖地の事など分からない、子供らしい子供だ。            「一体お前は何故現れたのだ?」             気持ち良さそうに口元に笑みを浮かべながら眠るジュリアスの柔らかい頬を撫で            ながらクラヴィスはずっと寝顔を見続けていた・・・・。   
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