天使のあくび 15
クラヴィスはジュリアスの約束を果たすためそれは懸命に執務をこなした。
その姿は誰もが驚愕するほどだった。まる一日食事をする時間も惜しんで、守
護聖皆が心配するほどだった。それ程無理をして執務をこなした結果、だいた
いの目処はつき夜の空も白々と明け始めた頃ようやくクラヴィスは就寝した。
そしてジュリアスとの約束した朝。クラヴィスはここ一週間の疲れが溜まった
せいもありぐっすりと死んだように寝ていた。
クラヴィスの部屋の扉をノックしようとする小さな手が1つ。手を引いて扉
を叩こうとする時やんわりとジュリアスの手をせいする者がいた・・・
「・・・ジュリアス」
「ルヴァさま?」
それは昨日無理をしていたクラヴィスのことを心配して様子を見に来たルヴァ
だった。
「クラヴィスは疲れているようなのでもう少しお休みさせてあげましょう」
「おやすみ?」
「えぇ、お仕事のし過ぎで疲れてしまったようですよ」
その言葉を聞いてジュリアスは俯いてしまった。
(だってクラヴィスさま、きょうあそんでくれるってやくそくしたよ。おしご
としてもつかれてないっていっていたもん)
きゅっと着ている服の裾を握りしめた。
「さぁ、ジュリアス。あっちの部屋にリュミエールとオリヴィエも来ています
よぉ〜行きましょうね」
「・・・・・。」
ルヴァはそっとジュリアスの手を握ってクラヴィスの部屋を後にした。ジュ
リアスを伴いオリヴィエとリュミエールが居る部屋に入ると2人は苦笑いをし
た。それは、予想通りにジュリアスが意気消沈と言った具合で入ってきたから
だ・・・
「ジュリアス〜そんな顔しないでこっちで遊ぼう。ね!ほらほらニコーッて笑っ
て☆」
オリヴィエはムニーっとジュリアスのマシュマロの頬を摘んで笑顔を作らせた。
「・・・・・」
「ほら〜っそんな顔をしていると可愛い顔が台無しだよ☆」
身振り手振りオリヴィエがあやすがどうにもこうにもジュリアスの機嫌は直
らないリュミエールが音楽を聞かせようともルヴァが本を読んであげてもジュ
リアスの表情は曇ったまま・・・・。どうした物かと3人が考えている内にジュリ
アスは毛足の長い絨毯にペタッと寝そべり絵を描き始めた。それを見た3人は
安心した様に顔を見合わせてクラヴィスの館の執事が出してくれたお茶をテー
ブルに着き飲んでいた。下手にジュリアスに声を掛けてこれ以上機嫌を損ねて
しまわないように・・・・
「でもさぁー、クラヴィスもよく頑張ってるよねぇー!普段は全然仕事なんて
しないクセにさぁ・・・。このちびっ子のジュリアス引き取ってホント上手く
やってるよね・・・感心しちゃう。」
「えぇ・・・そうですねぇ〜。クラヴィスは本当によくやっていると思います。
ジュリアスがいない分をフォローして・・・」
「でも、あれでは体を壊しても当然です。あんな量の執務をお一人でこなすだ
なんて・・・無理です。」
ティーカップを静かに置きながらリュミエールは悲しそうに瞳を伏せた。
「そうだねぇ。あの量の仕事ってジュリアスが何時もしていたんでしょ?気付
かなかったよねぇ・・・ジュリアス、涼しい顔して全部こなしちゃうからサ。で
もジュリアス以外の人間がやって初めてジュリアスの大変さが目に見えて分
かるだなんて私たちも情けないね・・・・。それだけ私たちが全てジュリアスに
まかせっきりで楽してたって事なのかなぁ〜」
オリヴィエは頬杖をついて窓の外を見た。
「ジュリアスも1人で大変だったのでしょう・・・私はそれに気が付きながらも
何も出来ませんでした。いえ・・・何もしなかったのです。ジュリアスは何を
しても何を任せても大丈夫だと私は思っていたのです。情けないですね・・
ジュリアスも人なのに・・・・」
ルヴァはティーカップの中に映る自分の姿を見る。
「アタシ達、【筆頭】って言う言葉に甘えてるよねぇ〜。めんどくさくて難し
い事を2人に押しつけて来ちゃってさ・・・。でも、2人に任せておけば何と
かなるって、大丈夫なんだって思っちゃって・・・。それで今回も全部クラヴ
ィスに任せちゃって」
“結局はクラヴィス倒れさしちゃった”とオリヴィエは口を噤んだ。
「これからは皆さんで出来るだけのことはお手伝いしましょう。困っている時
手を貸すのが仲間という者ではありませんか・・・」
「そうですね」
「うん。そうしよう!アタシたちに出来ることをやろうよ。それにしてもアタシ
クラヴィスがこんなに子煩悩な人だとは思わなかったなぁ〜ねぇ、ルヴァ」
オリヴィエは悪戯を仕掛けるようにルヴァにそう言った。
「そうですねぇ〜、どうですか?リュミエール」
「そうですか?私はそうとは思いませんでしたけれど・・・・」
「アタシはもっとこう子供は邪険にする人かと思ってたよ。五月蝿い物には
蓋って言うか・・・。普通にジュリアスの話を聞く時だってクラヴィス嫌そう
な顔するじゃない?子供になったジュリアスでもそうするのかと思ってた。
日頃の恨みって訳じゃないけれどサ・・・何かこうね。不思議って言うか・・・」
オリヴィエはまだ自分の中でも整理が付いていないという風に言葉を濁した。
大人達は所詮話の内容など子供には分かるまいと子供のいる前で話をする。
だが子供だって人間。人の話している内容は分かるのだ・・・例え話している意
味が分からずとも話の中に流れる雰囲気・自分の事を話しているのだろうな
と言うことは分かるのだ。柔らかな絨毯に寝そべっていたジュリアスはその
会話の雰囲気を察していた・・・
ここのところ仕事で忙しかったクラヴィスはまともにジュリアスに会えた
試しがなかった会えたとしても仕事が終わった早朝、朝起きてきたジュリア
スと入れ替わりに寝室に入ろうとする時にすれ違ったり。夕方仕事に出よう
とする時に夕食に出るジュリアスとすれ違う・・・そんな僅かな時間しかジュ
リアスとは会わなかった。
(ぼくのせいでクラヴィスさま、つかれれちゃったのかな?だからあそんで
くれないのかな?)
ポロポロとジュリアスの大きな瞳から涙が流れ落ちる。
ぐしぐしと服の袖で流れる涙を拭くとジュリアスは外に続くテラスの窓か
ら誰にも気付かれないようにそっと外に出た。
その事に誰も気が付かない・・・ルヴァもオリヴィエもリュミエールも・・・
ましてやベッドに沈んでいるクラヴィスでさえも邸から姿を消したジュリア
スの事を知る者は誰1人としていなかった・・・。
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