天使のあくび
通常の聖地は、クラヴィスが職務怠慢でジュリアスが職務熱心でオスカーがたらしで
リュミエールが優しくてオリヴィエが派手。ルヴァがのほほんでランディが熱血、ゼフ
ェルは反抗期、マルセルが天真爛漫。これが聖地の日常、まさしくこれのどれが欠けて
も聖地じゃナイ!と言うくらいだ。・・・・なのにそれがある日突然壊れた!何の前触れも
無くガラガラと壊れたのだ。この9人の中でそれを壊したのは・・・・
「いやぁ〜ん♪可愛いvv」
と猫なで声を出したのは毎度お馴染みオリヴィエである。身を屈め何かを抱きしめス
リスリ頬ずりをしている。
「やめんか!オリヴィエ!失礼だぞっ」
オスカーはオリヴィエの首根っこを掴んで引き離した。
「良いじゃないの別にさぁ〜★こんなに可愛いんだもん」
オリヴィエの手が伸び人差し指でツンツンとその者の頬を突っつく。突っつかれた者
は突っつかれた方の目を閉じてイヤイヤをした。
「ほら、止めて下さい!オリヴィエ様。嫌がっているじゃないですか!それにオスカー
様もそれとなぁ〜く手を握るの止めて下さい!」
熱血のランディが叫ぶ。2人は“おやおや”と言った具合に肩を竦めた。そんな遣り
取りを見ていた者は2人を見上げる。いつもならこの2人とは目線は同じ位なのだ。
だがその人物が見上げるのには訳がある・・・・
「おすかー・・・さま・・」
その者の言葉にその場にいた全ての守護聖が注目する。オスカーも一瞬驚いて眼を開
きだがその者と眼が合うと優しくアイスブルーの瞳を細めた。
「何ですか?ジュリアス様」
・・・・ジュリアス様?何故にジュリアスが下僕(笑)のオスカーに“様”など付けるのだ
ろう?と何時もなら思うかも知れない。だが今はその“何時も”ではないのだ!聖地の
日常を崩したのは紛れもなく【光の守護聖・ジュリアス】あの泣く子も黙る仕事の鬼の
ジュリアスが何と子供になってしまったのだ!見れば4歳児位の身の丈、言葉遣いもた
どたどしく聞いてみれば、ここの聖地の記憶が一切!全く!全然無いのだ。だから、今
他の守護聖の前にいるジュリアスは光の守護聖ではなく。単なるお子ちゃまなのだ。原
因は天下の女王陛下でさえ分からず終い。だけれど皆焦った雰囲気はない、それは天使
のような愛らしいジュリアスの容貌にあるかも知れない。美しい太陽の光の髪は背の半
ばまで伸びていて、切れ長の紺碧の瞳は大きくクリクリと宝石のように輝いている。ス
ラリと長かった手足も今は短く掌は紅葉の様に小さかった。そうこれはまるで天使が舞
い降りた様・・・・それが一番正しい言い方だった。
「オスカーさまのかみはあつくないの?」
「・・・・?何故です?」
「まっかだから・・・」
何と可愛らしい事を言うのだろうとオスカーの顔が綻ぶ。
「触ってみますか?」
「うん」
オスカーはジュリアスを抱き上げて自分の髪に触らせてやる。
「いかがですか?」
「・・・・・あつくない。」
「でしょ?」
「ありがとう、おすかーさま」
その光景を皆微笑ましく見ていた。オスカーを“様”付けで呼ぶ理由は年少の守護聖
にある。恐らくジュリアスは年少の者達の呼ぶ名前で覚えたのだろう・・・。だから、年
少以外の守護聖の事をジュリアスは“様”付けで呼ぶのだ。ジュリアスが幼くなってし
まったのは今朝、そしてジュリアスが緊張を解いて皆と話すようになったのが正午、そ
して名前を呼ぶようになったのは3時のティータイム。本当にここまで“長かった”と
皆溜息を先程付いていたくらいだ。幼いジュリアスは人見知りをするらしいが打ち解け
てしまえば何のことは無い。とても懐いて可愛い。
「それにしてもジュリアスの洋服何とかしないとね・・・・」
オリヴィエがオスカーに抱っこされるジュリアスを見ながらそう呟いた。今のジュリ
アスは自分の私邸に適当な者が直ぐに見あたらなかったのか、平たい布をグルグルと巻
いたような格好をしている。一番始めのジュリアスの正装の格好なのだがあの正装は上
背があっての正装でこんな小さな子供がすると全身が布で覆われてしまい団子のように
なっている。
「良いんじゃねーの?別にもう少しで夜だしよ、後は寝るだけなんだから・・・」
ゼフェルはオレンジ色の夕陽を指差しながら溜息を付いた。確かに見ればもう日は傾
いていてオレンジと紫の見事なグラデーションが空を覆っていた・・・
「それはそうなんだけどさ・・・。あぁ、それじゃ!明日ジュリアスの洋服一式全部揃えて
持っていくわよ★今日は我慢するけれど・・・明日はきちんとした格好させてアゲルから
ね今日は我慢してね!ジュリアス。」
「うん。」
【美意識の鬼】のオリヴィエの思惑に気づかぬ他の守護聖達は“やれやれ”と溜息を
付いた。
「さぁ、もう日が暮れますしそろそろ皆さん御自分の館に帰った方が良いのではないで
すか」
「えぇ、そうですね。そろそろ帰った方が宜しいですね・・・」
ルヴァとリュミエールがそう言って席を立った時に後ろから盛大な溜息が聞こえた。
「おいっ!おっさんっ!ボケてんじゃねーよ、そのまま帰るつもりかよっ!」
「えぇ、そうですが何かありますか?ゼフェル・・・・」
「チッ!ホントにボケてんだなっっ!このちびっ子のジュリアスはどうするんだよ!こ
んなちびっ子のジュリアスをあんなだだっ広い邸に独り置いておくのかよ!」
「あ〜〜〜っ、そうでしたぁ〜。どうしましょう、リュミエール。」
ルヴァはオロオロと動き回った。何時も尊大な態度で振る舞うゼフェルも人一倍気の
利くところもあるのだ。
「ジュリアス様がお選びになった方がよろしいので・・・」
リュミエールが全てを言い切らない内に口を挟む命知らずがいた。
「だったら、ジュリアス様!俺の邸にしましょうね!ねっ!」
とても嬉しそうにオスカーはジュリアスの顔を覗き込みながら言った。後ろでリュミ
エールがメデゥーサの如く怒り狂っているのも知らずに・・・。
「オスカーさまのおうちはイヤ・・・クラヴィスさまのおうちがいい」
「なんとっ、今なんと仰いましたかジュリアス様!このオスカーを拒むなど(号泣)」
うをぉんうをぉんと泣き出したオスカーをジュリアスの一言が突き刺す。
「オスカーさま、うるさい・・・・」
ぐさぁぁぁぁ−っ!と言葉の刃がオスカーのハートを貫く。
「ぎゃははぁ〜!ジュリアスの奴良く分かってンじゃねーか!」
「止めなよ、ゼフェル〜オスカー様お気の毒だよ・・・」
「そうだよ!ゼフェルオスカー様に失礼だぞ。何時もあんなにお側にいてお仕事を手伝
っているのにジュリアス様に『うるさい』なんて言われてお可哀想なんだぞ!」
ぶしゅぅぅぅ−っ!今度はランディの無意識攻撃がテクニカルヒット!
「ぐふふ、アンタ達も言うねぇ〜★」
オリヴィエがケラケラと笑う。ルヴァとリュミエールは苦笑を隠しえない。今迄一言
も喋らなかったクラヴィスはと言うと・・・・いつの間にかジュリアスの側に来て
「行くか?」
とジュリアスに手を伸ばしていた。ジュリアスはニッコリと笑うとクラヴィスの手を
取った。
「ではな・・・」
聞いているのか聞いていないのか分からぬ者達にそれだけを言うとクラヴィスは部屋
を後にした。
・・・・・・スタスタ。
・・・・・・・・・とてとて。
長い廊下を手を繋ぎながら歩いていたが、どうも歩きにくい。クラヴィスはそう思って
いた。クラヴィスはピタッと立ち止まると屈んでジュリアスを抱き上げた。
「・・・・わぁっ!!」
「私とお前とでは歩く速さも違うし背も違うこの方が早いからな・・・。イヤか?ジュリアス」
「イヤじゃない!」
ジュリアスは嬉しそうに微笑んだ。
「クラヴィスさま」
「・・・・なんだ?」
「クラヴィスさまにだっこされると、いろんなものがみえる」
「・・・・?」
(色んな物が見える?一体何が・・・・あぁ、そうか今のジュリアスの背では見えない物
が私に抱きかかえられると言う意味か・・・)
「色んな物が見えるか?」
「うん!」
この様なたわいのない話をしながら2人はクラヴィスの館へと向かった・・・。
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