天 穹

vision V

          アドニスに案内された部屋は広くもなく狭くもなくごく普通の部屋だった・・・。気の窓枠          からは先程居たレイモナ公園が見える。シングルのベッドには真っ白なシーツが掛かって          いる。いきなり決まった宿泊なのに部屋には埃1つ落ちていない、この宿の・・イリスの手          が行き届いているのだろう・・・・。   「アドニス、他の従業員はいないのか?」          「うん、ぼくとお母さんだけでやってるんだ・・・。」                     少し寂しそうな顔をしてアドニスが言う・・・。          「荷物はここでいいの?クラヴィス」          「あぁ、別にどこでもいい。適当な所に置いて置いてくれ・・・」           小声で(ものぐさだね・・)とアドニスが言う。聞こえないように言ったのだろうがハッキ          リ聞こえている。          「私は確かにものぐさだが・・・。」                     ビックと身体を振るわせるアドニスに意地悪く微笑むとクラヴィスは拗ねたように窓の外          にフイッと瞳を逸らす・・・。          「ごっごめんなさい。クラヴィス怒った?」           と紺碧の瞳を潤ませ必死になって腕に縋ってきた。流石にこのアドニスの必死な様子に内          心(子供相手にやりすぎたか・・・)と思い優しい笑みを浮かべて頭を撫でてやる。          「怒ってなどいない。お前をからかってみただけだ、クスッ」          「むぅ〜、クラヴィスってばいじわる。」                      その言葉を懐かしく感じた・・・。この数年聞いてない言葉だ。何かにあると私に突っかかっ          てきたジュリアスの揚げ足をとってはからかっていたものだ・・・。その時必ずジュリアスから          言われる言葉が(そなたは意地が悪い・・・。)と頬を膨らませて言っていた者だ。そんな私は          嫌いか?と訪ねれば顔を真っ赤にして(・・・好きだ)と答えたものだったな・・・。ジュリアス          もう少しでそなたに会えるのだな・・・。あと1週間だ・・・。3年の月日を思えば短いものだ。                    「・・・クラヴィス?どうしたの?」          「いや、お前の(意地悪)と言う言葉が懐かしくてな。よく言われていたのだ、私の愛する           者に」          「クラヴィスの好きな人?好きな人、いるんだ!どんな人?」           ベッドに座るクラヴィスの前に椅子を持ってきてアドニスはチョコンと座った。          「・・・そうだな、他人にも厳しく自分にもより厳しく誇りが高くて仲間思いだったな。だが           容姿が完璧すぎたせいか、皆に冷たい印象を与えていてその思いが伝わらない時があっ           たな・・・。何時も頑張りすぎて(疲れた)とか(休みたい)とか絶対言わない者だった。そ           んな時に私が側にいると言っていた・・・そんな者だ・・・」          「そうか・・・クラヴィスの好きな人って強いんだね」          「強いからこそ脆い部分を持っている、アレは私がいなければ休めない奴だから今も無理を           しているに違いない・・・。」           そう言うとクラヴィスは窓辺に立ち窓を開けると冷たい風が入ってきた空を見上げると青          空が広がっている。                     (風邪など引いていないか?ジュリアス。お前は強いだが脆い・・・。強さだけでは人間は生            きていけないのだ安らぎも必要なのだ・・・。今お前の側に安らぎである私がいない。無理            をしてはいないだろうか・・・・。)          「クラヴィス、早く会えるといいね!」           随分悲愴な顔をしていたのだろうか?いや、違うなアドニスは同情ではなく心からそう思っ          てくれたのだろう。          「あぁ、そうだな・・・」           その時クラヴィスの部屋の扉をノックする音がした。          「申し訳ありません、こちらにアドニスはいませんでしょうか・・・」           それはイリスの声だった。          「お母さん?いるよ!ぼく」           すると(失礼します)と言ってイリスが部屋に入ってきた。イリスはキツイ眼差しをアドニス          に向けると                    「何時まで、お客様のお部屋にいるの・・・ご迷惑でしょ。お買い物に行ってきてちょうだい」           普通の母親が怒った時に向ける眼差しとは違い、その眼差しは本当にキツイものだった。憎し          みが隠っているような・・・アドニスは怯えたように謝るとイリスから買い物籠を受け取った。そ          してクラヴィスの方を見てペコリと頭を下げた。          「ごめんなさい、クラヴィス。」          「謝らなくていい、私が話し込んでしまったのだ。イリスそうアドニスを怒らないでやってれく           ないか・・・」          「えぇ・・・そう仰るのなら・・・・」          「そうか、良かった」          アドニスの頭をポンポンと優しく撫でる。                     「アドニス買い物に行くなら私も付き合おう」          「えっ!いいよ!」          「街の中の事を知りたいのだ。付き合わせてくれ・・・」          「うん・・・・」                    アドニスはチラッとイリスを見る。イリスは          「ご迷惑にならないようにしっかりと街をご案内しなさいね」                      と言ってクラヴィスに頭を下げると部屋を出ていってしまった。クラヴィスはアドニスに肩を          竦めてみせると部屋を後にした。              
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