違う・・・・
違うんです・・・・あの人のせいじゃない
俺が
俺がどんくさいから
アレを避けれなかったから
だから、あの人は悪くないんです・・・・
【 − モノ − 四 】
「辰兄、お願いだから離して!」
自分を抱きしめ離そうとしない辰の腕を必死に剥がそうと藻掻く。
「ダメだ鉄っ。離したらお前はあの人の所に行くつもりだろう!そんなのはダ
メだ!お前を傷つける人なんかの所に行かせるわけには行かないっ!」
鉄の首筋に顔を埋めて一層力を込める。
「や・・・・・やだぁーっっ!!」
冷たい廊下を歩き土方の部屋に向かう沖田は心の内に込み上げてくる怒りを
抑えきれないでいた。この足音を聞けば感覚の鋭い土方は相手がどのような精
神状態か察するだろう・・・。
すぅ・・・・・・・
部屋の主に声も掛けずに襖を開けると額に手を当てて顔を伏せている土方が
居た。
「どうしたんですか?土方さん、具合でも悪いんですか?」
「いや・・・・・」
「それじゃ、自分がしてしまったことを後悔しているんですか?」
沖田の感情のない言葉に顔を上げるとまるで能面のような顔をした沖田が見
下ろしていた。鬼と恐れられた沖田の今迄に見せたことのない怒りを押し込め
た【無】の表情だった。
「市村が言ったのか・・・?」
「いえ・・・・鉄之助君はどんなに僕がせめて聞いても何も言ってはくれません
でした・・そこに辰之助さんが来て全てを聞いたんです」
「あの馬鹿が・・・・」
俺を庇う必要がどこにある。自分を傷つけた相手をなんで庇ったりなんてす
るんだ・・・市村、お前は馬鹿だ。
「鉄之助君達・・・ここを出ていくそうですよ・・・・」
「なっ!」
「小姓という役目で土方さんに痛めつけられるのならここには居られないと
辰之助さんが言ってました・・・」
「・・・・・・」
「いいんですか?土方さん、彼らが出ていっても・・・・」
土方は手近にあった半紙をグシャリと掴んだ。
「そんなことは許さねぇ!市村は俺の小姓だ。俺が良いと言うまでは俺の側
に置くっ!」
ダンッ!!
文机を壊れんばかりに叩く
許さない、俺から離れていくなんて・・・絶対に許さないぞ!市村。
すぅ・・・・・・・・・・
土方の怒りの熱気を冷ますように沖田は障子を開けた。すると冬の冷たい
風が部屋の中にスゥッと入り込んでくる。障子に手を当て冬の寒さで枯葉1
つ付いていない柿木を見つめる。
「・・・・・・・・・・土方さん、何故そんなに鉄之助君に執着するんですか?」
「・・・・・・・・それは、俺の小姓だからだ・・・・」
言葉に詰まった。
冷たい風が先程の熱を冷ましてくれる。
「小姓?果たしてそれだけですか?・・・・今迄の貴方ならとっくに縁を切っ
て追い出していた筈ですよ・・・去る者は追わず・・・貴方の主義でしょう?
それが「小姓を辞めて出ていく」と言った鉄之助君を冷静な貴方が我を
失うまで・・・・・端から見れば見苦しい程までに取り乱して・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「その感情・・・・・鉄之助君が自分の【小姓】だから・・・・。それだけですか?」
沖田の言葉に雷(いかずち)が身体を駆け抜けた気がした。呆然と眼を丸
くしている土方に1つ深い溜息を付くと
「土方さん、よく考えて下さいね・・・・そうしないと本当に彼らは居なくなっ
てしまいますよ・・・・」
そう言い残し障子を閉めて出ていってしまった。
「土方さん・・・側にいたい、束縛したい、自分の物にしたい・・・・それは・・・」
【 】
「と言うのではないのでしょうか・・・・?」
枯葉がカサカサと風に舞って笑っているように聞こえた・・・それはまるで、
自分の気持ちを自覚していなかったあの人を笑うように・・・・
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