あんな事をするつもりじゃ無かった・・・
ただ、驚かせてやろうと思っただけで・・・・
それなのに・・・・
【 − モノ − 弐 】
土方は機嫌も悪く自室に帰るとドッカリと座り込み筆を取った・・・。しかし、筆を取
ったところで先程の事が頭をちらついて物を書く気になんてなれない・・・
「チッ」
舌打ちをするとべちゃっと硯に筆を置いた。
「なぁにイライラしてるんですか?土方さんv」
何時の間に入ってきたのか総司が目の前に肘をついて俺の顔を覗き込んで居た。
「総司、部屋に入ってくるときは声を掛けろと言っているだろうが・・・」
ただでさえ苛ついているのにこれ以上苛つかせないで欲しい・・・
「僕は何度も声を掛けたんですけどねぇー。気付かなかったのは土方さんですよv」
「そう言う時は返事があるまで入って来るんじゃねー」
「だって、もし土方さんが部屋の中で倒れていたら大変じゃないですか。あはは」
どこまで人をおちょくっているのか総司はああ言えばこう言うと言う感じに口が達
者だ。
「副長・・・・茶入れてきました・・・・・」
元気の無い沈んだ声が聞こえた・・・・
「あぁ・・・・・・・・」
ぶっきらぼうに返事をするとスゥッと障子が開いた。
「あぁ、鉄之助君。良いところに来た・・・聞いて下さいよ土方さんったらねぇ」
と何時もの通り沖田が鉄の側に寄ると何かに気が付いたのか茶を乗せているお盆を
奪い取り右の手首を掴んだ。
「お・・・・・おきたさん・・・・?」
沖田の行動にどうして良いのか分からず鉄はオロオロとするばかり
「どうしたんですか?この火傷は・・・」
「あ・・・・・あの・・・・茶、零しちゃって・・・・」
あからさまな嘘である。右の手の甲にある火傷は黒く煤けた物が付いていて回りは
酷く赤く水ぶくれしている・・・
「嘘、言わないで下さい。お湯でこんな火傷はしないハズですどうしたんですか?」
「あ・・・・あの・・・・その・・・・・」
俯いて何かに耐えるような鉄と不機嫌な土方・・・・。そして、違和感を感じた・・・そう
だ土方の煙管がない・・・何時でもどこでも肌身離さなかった煙管がこの部屋のどこにも
見あたらないのだ・・・・
「土方さん・・・・煙管・・・・どうしました?」
沖田の眼は鋭く土方を貫く
「さぁな・・・・・それがどうした?」
土方は受けて立つようにその眼を睨みすえる暫くの沈黙の後
「鉄之助君、火傷の治療をしましょう・・・・」
「え・・・・でも・・・・・」
言い淀み胸元を気にしている鉄を不審に思う沖田は胸元をじっと見ると金属の先が
見えてそれを摘み鉄が押さえるよりも早く抜き取ってしまった。
「これは?なんですか・・・・」
沖田の手には土方の煙管があった。
「あ・・・・あの・・・・副長の煙管を拾って・・・・」
「拾って?」
「い・・・・いや・・・・違うんです・・・・お・・・俺が副長の煙管で遊んじゃって・・・・吸ってみた
いなって思ったんです・・・だから・・・・だから・・・・」
副長はなんにもやってないんです
鉄はそう大きな声で叫びたかった。自分の大切な人が何時も使っている物を別の人
が持っていると言うことはその人にとってどれ程嫌な事だろうと鉄は自分の落ち度を
感じていた・・・もっと上手く隠せていたら・・・沖田さんに嫌な思いをさせなかったかも
知れない・・・他の誰かに届けてもらうように頼んでいたら・・・この2人が険悪な雰囲気
にならなかったかも知れない・・・・鉄は悩んでいた。
沖田は沖田で鉄の次の言葉を静かに待っていた・・・。拾ったのなら何故にこんなにも
おどおどと弁解をするように話すのか・・・こんな態度を取っていれば何かがあったなん
てまる分かりだ。嘘を吐いたことが無いのだろう・・・素直に育ってきた鉄は嘘を吐く理
由が無かったのかも知れない・・・。
「・・・・・・・・・土方さん」
「アァ?」
「後で話があります・・・・良いですね」
「・・・・・・・・・・・・あぁ」
バンッと煙管を文机の上に音を立てて置くと沖田は鉄の手を引いて部屋を出ようと
する。
「あっ、沖田さん。でも、俺・・・副長の茶を・・・・」
「お茶ならもう持ってきたじゃ無いですか・・・土方さんそこにお茶があるんで勝手に飲
んで下さいよ。まさか、口にまで湯飲みを持って行かなきゃ飲めないって子供じゃ
あるまいし・・・。鉄之助君、暫く借りて行きますね。お茶よりも手当の方が大切です
から・・・・」
ニッコリと微笑むが瞳は笑わずに睨みを据えたまま沖田は鉄を連れて出ていった。
残されたのは湯気が漂う鉄の入れたお茶だけだった・・・。手に取り一口お茶を飲む・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿が・・・・・・・・」
市村お前は馬鹿だ・・・俺を庇うなんて事をどうしてした・・・総司に煙管の事を聞かれ
たときにどうして俺にやられたと言わなかったんだ・・・
土方は前髪をクシャリと掴むと煙管を壁に叩き付けた。叩き付けられた煙管は
ペキッ
と言う物寂しげな音を出して畳に落ちた・・・・
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そして、また続くのでした・・・・・。