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これをこのケーキを渡したらどんなにクラヴィスは喜ぶだろう。どんな顔を見 せるのだろう・・・・。それを考えると心も廊下を蹴る足も速くなる。弾む心を抑え ながらフラワーアレンジメントの教室へとジュリアスは向かった。 クラヴィスは何時もこの授業が終わった後、『1人で落ち着いてしたいから・・』 そう言って1人誰も居なくなった教室でアレンジメントをしている。落ち着いた 雰囲気と静寂を好むクラヴィスはこの時間が一番好きだと言っている。教室に着 きドアの前で深呼吸をしてからドアを開いた。・・・・開ければ、1人でアレンジメ ントをしているクラヴィスがいるはず・・・・。 ・・・・カラッ。 静かにドアを開けるとそこにはクラヴィスともう1人生徒が居た。しかもクラ ヴィスはアレンジメントなどしてはいなくケーキを食べていた。それを見たジュ リアスは教室には一歩も入ることはなく手に持っていたケーキボックスを自分の 背に隠した。 「どうしたの?ジュリアス・・・。」 「えっ、あぁ今日も帰りは遅くなるのかな?って思ったから聞きに来たの・・・・」 ジュリアスは痛みに悲鳴を上げる心を抑えながら嬉しそうにケーキを食してい るクラヴィスの笑顔を壊さないように言った。 「そうね。今日も遅くなるかしら、それよりもジュリアスもいかが?有名なキャ メリアのチーズケーキよ。この子が持ってきてくれたのよ、ねぇセイラン」 クラヴィスに向かい合うように座っていたセイランがジュリアスを見た。群青色 の真っ直ぐな髪が方の辺りで揺れていた。彼女は何処かジュリアスを嘲るような笑 みを浮かべると『ジュリアスさんのお口に合うか分かりませんけれどいかがですか ?』と言った。 「ほら、セイランもこう言ってくれていることだし。そんなところにいないでジュ リアスもいただきましょうよ。とっても美味しいわよ。」 余程嬉しかったのかクラヴィスは笑顔を絶やさずいつもより饒舌だ微笑の顔を見れ ば「実は私もチーズケーキを作ってきたの」とは言えなかった。それは当たり前、あ の有名で雑誌やテレビでも注目されているキャメリアのケーキと自分の作ったケーキ とでは比べる方が間違いという物だろう・・・・。誰でも美味しいものを食べたいに決ま っている・・・・。ジュリアスはドアに身体を半分隠しながら言った 「いいえ、部屋に帰ってする事があるから・・・。今回はご遠慮しておくわごめん なさいね」 「そう残念ね。折角セイランが持ってきてくれたのに・・・」 「いいのよ、クラヴィスさん。ジュリアスさんのお口には合わないみたいだし・・」 「そんなっ、そんな事は・・・・」 ジュリアスが否定しようとした時にジュリアスよりも少し大きな声でセイランに 遮られてしまう・・・ 「いいのよ、ジュリアスさん。ところで今日の選択授業で何をお作りになったの?」 セイランの問いかけに一瞬頭が真っ白になってしまう。 「えっ?いっ苺のババロアを作ったわ・・・・」 ・・・・・咄嗟に嘘を吐いてしまった。 「そうなの?部屋に帰ったら食べさせてね。ジュリアス・・・」 「ごっごめんなさい、皆にあげてしまったからもう・・・・無いの」 そう言うと、クラヴィスは少し悲しそうな顔をして「そう・・・」と言った。 「・・・・クスッ」 「なに?セイランいきなり笑ったりして・・・。」 「いいえ、ジュリアスさんからケーキの匂いがしたからてっきり今日はケーキを お作りになったのかと思ったから。」 セイランはジュリアスから眼を逸らさずに意味ありげな視線を送ってきた。 「そうなの?ジュリアス・・・・」 「そっ、それは多分他の子が作っていたから匂いがうつったのよ・・・・」 ジュリアスは必死に言い訳をする。セイランはそれを面白そうに見つめながら 「そう言うこともあるかしらね」と言った。ジュリアスはこの雰囲気に絶えられな くなって「用があるから先に帰るわね」と言って部屋を後にした。手の中で揺れる ケーキボックスが鬱陶しい。薄暗くなった廊下を1人歩く・・・・ (このケーキ、どうしようかしら・・・・。リュミエールとルヴァには上げてしまっ たし・・・。私1人では到底食べれないし・・・・。そうね、オリヴィエとオスカーに上げ ましょう・・・・) そう思いながら、大きな溜息を付いた。【折角作ったのに・・・・】と言う思いと【 クラヴィス本当に嬉しそうだった・・・】と言う思いが複雑に入り交じる。別に恩着せ がましい『ありがとう』が聞きたかった訳じゃ無い、昨日の・・・・一緒に本を運んでく れたことが嬉しかったからそのお礼をしたいと思っていたのだ。 (・・・それも、無駄になってしまったけれど・・・・。) ジュリアスはぼんやりと廊下を歩いていた。 ・・・・・どんっ! 廊下を曲がったところで激しく誰かと衝突してしまい。ジュリアスは自分がぼんや りしていたせいだと思って焦った。 「ごっ、ごめんなさい。ぼんやりしていたものだから・・・」 目に涙を溜めて必死に謝る。 「いやっ、俺の方も上の空だったから・・・・」 暗くて良く顔は見えなかったが、声を聞いたら教師だと分かった。 「大丈夫でしたか?アリオス先生・・・」 ジュリアスがぶつかったのは、この学園でも女生徒・女教師に人気の生物の教師の アリオスだった・・・。 「いいや、大丈夫じゃない・・・」 「えっ!!」 「ほら、このケーキが重体だ。」 そう言ってアリオスはジュリアスの持っていたケーキボックスを持ち上げた。アリ オスの戯けた仕草に笑いが出てきた。 「そのケーキは良いんです。あげる人もいないですし・・・・」 ジュリアスは少し悲しそうに言う。 「じゃあ、俺が貰おうかな。美味そうだし・・・・」 「でも、それ潰れちゃっているし・・・」 「食べ物は見かけじゃないさ・・・。俺も1人で食べるのは寂しい一緒にどうだ?」 「はい・・・・」 アリオスの黒い噂も知らずにジュリアスは促されるままアリオスの後に付いていっ た・・・・。 |