麝香連理草 - scar \- 昔、こう言われた事があった・・・ 「人が開けるなという物は決して開けてはいけないよ」と 「開けるなと言った人はお前の事を思って開けるなと言ってくれているのだから開 けてはいけない。」そう言われた・・・ 「見無くてもいいモノを見ることになってしまうよ」そう言われた・・ 「折角の忠告を破った者は見た後で絶対後悔するのだ」とそう言われた・・・・ 扉を開けると中には白い大きな箱があった・・・そしてその大きな箱に腕を伸ばして 何かを陛下が抱きしめているのだ大きな哀号と共に・・・今迄必死に私達をこの部屋に 入らせぬようにしていた者達が私達が部屋に一歩入ってしまえば部屋の中に居た大 勢の派遣軍の者が皆、片膝を付き私達に道を空けた・・・。 「・・・・皆さん」 何時もは冷静な女王補佐官のロザリアが声を悲しみに震わせていた・・・。頬を伝う 涙も拭わずに女王・アンジェリークの肩を優しく抱いていた。 「・・・ジュ、ジュリアス・・・嘘でしょう・・・あなたがっ・・・貴方がこんな・・・こんなっ」 守護聖達は白き箱から一定の距離を保ったままだたその場に立ちすくんでいた。 アンジェリークの腕の中から僅かに金糸が晶光としているのが見える・・・キラキラと 腕の中で光が零れているのが見える・・・。 それを見て守護聖達は動けずにいた・・・近くに寄れば本当の事が見えてしまう、現 実が押し寄せてくる・・・あの人は本当に居ないのだと・・・・模糊でいい・・その事がはっ きりと分かってしまう・・・ 「・・・ジュリアスは・・・・」 泣き続けるアンジェリークの背をさすりながらロザリアは一呼吸置くと話し始めた。 「・・・ジュリアスは惑星と共に正命するはずでした。惑星と共に悠遠の時の中にそ の魂を栖遅するはずでした・・・しかし陛下が至道を尽くしてくれたジュリアスを 誰も知らない惑星と共に逝かせることは余りにも楚々だと仰って・・・惑星の歪み を見つけだし消滅する刹那の時間にジュリアスをこの地に戻したのです・・・。」 ロザリアは視線を白い箱の中に移らせる 「ジュリアスが知るこの地で、ジュリアスを知る者達で送ってあげたいと・・・」 そう全てを話したロザリアは静かに立ち上がる 「陛下・・・もう行きませんと・・・ジュリアスを精光なお姿にさせて頂かないと・・」 アンジェリークは一瞬身体を強張らせると腕の中に抱く光を静かに戻したその動 きもアンジェリークの動きだけしか見えない・・・。白い箱は全てを遮断するようにそ の周りを隠している。その中に居る人さえも・・・ 「陛下・・・・」 ロザリアの支えを借りてやっと立ち上げれるようだった。そのアンジェリークの 姿を見てその場に居た者は息を呑んだ・・・。立ち上がったアンジェリークのドレスが 紅萼が咲いたかのように鮮血に染まっていたからである。その頬にも腕にも鮮血が 付いていた・・・ ロザリアは後ろで控えている者に何かを話すと模糊な状態で何かを呟いているア ンジェリークを奥の部屋に連れて行った・・・ロザリアとアンジェリークが奥の部屋に 行ったのを見届けた側仕えの者が白い箱に近寄りその中に手を伸ばした・・・ 「・・・・・(触れるな)」 そうクラヴィスは心の中で叫んだ。 ジュリアスが汚される・・・ そう思ったのだ。クラヴィスの思いは届かず側仕えの者の幾つのも手が伸びる・・・ サワルナ・・・さわるな・・・触るな・・・私のジュリアスに触るな・・・ 「触るなっ!!」 日頃、大きな声など希有に出さないクラヴィスに側仕えの者達は驚いて手を引い た。 「・・・・ジュリアス。」 自分でもどう歩いているのかさえ分からない、そんな状態で一歩一歩ジュリアス に近付く自分としては最後の姿など見たくもないのに「恋人なのでしょう?」「一 番大切な人なのでしょう?」と言う皆の視線に押されるように一歩一歩私は近付い ていく・・・。 白い白々とした箱はあの者を連想させるに等しい・・・見下ろせば紅萼に彩られた ジュリアスが居た口元は紅を差したように赤かった・・・顔は瑞々しく触れれば暖かく 柔らかい手触りの良い肌・・・私は膝を落として頬を両手で挟みジュリアスに口付けを した・・・ 「・・・・ジュリアスッ・・・」 涙が頬を伝った・・・頬は冷たく嘗ての瑞々しさも失われ・・・紅萼はジュリアスの長 衣が血に染まっていただけ・・・紅を差したように見えた唇は血に染まっていただけだ った私の唇にはジュリアスの血が・・・ 「ジュリアスッ・・・」 溜まらなくなって私はジュリアスを抱きしめた・・・力のないぐったりとした身体を 頭がガックリと下がる身体をかき抱いた・・・。力の限り抱きしめた・・・そうすれば「苦 しいぞ、クラヴィス」そう言う声が帰ってくるのではないかとそう思った。だが・・・ 声は帰ってこない・・・。 「ジュリアス・・・目を覚ませ・・・何時も私に言っているではないか・・・執務を始める ぞジュリアス・・・・ジュリアスッ」 返事は帰ってこない・・・。 「ジュリアスッ私が呼んでいるのだ。・・・帰ってこい・・・ジュリアス」 身体を揺さ振ってみるが力のない身体は力なく揺れるばかり・・・ 「ジュリアス・・・頼むから・・・戻ってきてくれ・・・」 「・・・クラヴィス、もう止めて下さい。それ以上は・・・・」 ルヴァがクラヴィスの肩を優しく叩き制した。ルヴァもこれ以上はクラヴィスを 見てはいられなかった・・・。心が崩壊していくのを見てはいられなかった・・・。 だが、クラヴィスはジュリアスを離そうとはせず一層力強く抱きしめた・・・誰にも 離されないように・・・・その時、ジュリアスの胸の辺りでカサッと音がした。不思議に 思ってジュリアスの胸に手を差し入れて探すと血で汚れた手紙が出てきた・・・ 「あぁ・・・それは【願いの手紙】ですね・・・・」 後ろにいたルヴァがそう呟いた・・・私はそう言われてもまだ思い出せずにいた・・・。BACK NEXT