麝香連理草 - scar ]- 「忘れてしまったのですか?・・・クラヴィス」 そう言ってルヴァは悲しそうな顔をした。 「昔、私とジュリアスと貴方の願いを手紙に書いて貴方の私邸の庭に埋めたではあり ませんか・・・・」 ・・・・あれは、そう・・・そう言えば埋めたかも知れない・・・。いや、確かに埋めた私も願い を手紙にして願いが叶うようにと木の下に埋めたではないか。そう、昨夜香夢のように美 しい姿で木の下に居たジュリアス・・・確かに私達はあの下に手紙を埋めた・・・。 「・・・ルヴァ、私は・・・」 「・・・・思い出しましたか」 「あぁ・・・・」 昨夜、木の下に蹲って何かを必死にしていたジュリアス。・・・あれは・・・掘り出していたの だあの手紙を・・・自分の願いを掘り出していたのだ・・・。 「だ・・・だが、この手紙は確か・・・・」 余り急な事で口が上手く動かない・・・。私は腕の中にいるジュリアスに話しかける。 「お前が言ったではないか・・・・来るべき歳を迎えたら皆で幼い頃の願いを見ようと・・・・ 幼い頃の願いは叶っているかどうか見ようと・・・そうお前が言ったのではないか、そ れがどうして・・・・」 ジュリアス・・・何故だ。何故、今この手紙がここにあるのだ・・・そう語りかけどもお前の 声は帰ってこない・・・。 「・・・・ジュリアス・・・・なぁ・・・・答えてくれ・・・・・」 「その手紙は自分と共に連れて行こう・・・そう言っていましたよ・・・ジュリアスは」 願っていたジュリアスではなくルヴァが答えた・・・。 「・・・・連れて行こうだと・・・・?」 「えぇ・・・・人の目に触れてはいけない手紙だから、誰もが嫌な思いをしなくてもいいよ うにと・・・あの惑星にジュリアスは持っていってそのまま逝くつもりだったのでしょう まさか、聖地に戻れるとも思ってもいなっかったのでしょうね・・・・」 そう・・・それは思っても見なかった事、そのまま惑星と共に消滅するはずだったジュリア スはアンジェリークの力によって惑星が消滅する刹那・・・聖地に戻されたのだった。 「・・・誰もが嫌な思いをしなくてもいいようにだと・・・?ジュリアス、お前はそんな事書く はずがないではないか・・・何を書いたのだ・・・」 クラヴィスはジュリアスを抱く手を緩めて手紙を開ける。所々に付いたジュリアスの血 が開封を拒む。それでも、ジュリアスの心を開くようにクラヴィスは丁寧に手紙を開いた。 子供の頃のジュリアスの字が書かれている・・・子供とはいえとても美しくて流れるような 文字、とても大好きなジュリアスの文字・・・・。 そこには・・・・そこには・・・・とても短い一文が書かれていただけだった。 「・・・ジュリアスッ!お前はどうして・・・どうして・・・っ」 クラヴィスはジュリアスの頭を抱えて抱きしめた。手からは手紙がするりと落ちる。そ れをルヴァは拾い上げ目を通す・・・ 「ジュリアス・・・貴方という人は・・・・、こんなにもクラヴィスの事を思っていたのですね」 「・・・ジュリアスは何て書いてたの・・・ルヴァ」 それまでただ2人・・・いや3人を見守っていたオリヴィエが声を掛けた。 「えぇ、それは・・・」 クラヴィスとずっと一緒にいたい J 「何だよっ!ゼンゼンわかんねーよっ!それが何だって言うんだよっ!ルヴァッ!!」 ゼフェルは頭を掻きむしりしゃがみ込んでしまった。それをランディ、マルセルがな だめる・・・・。 「・・・ジュリアスがこの手紙を持っていた理由それは、クラヴィスの事を思ってですよ」 クラヴィスとジュリアスは最後に出会ったその日に諍いをした。それは何時もの諍い だとクラヴィスは思っていたのだ・・・だが、そうではなかった。 ジュリアスを鬱陶しいと言ったクラヴィス。リュミエールを愛していると言ったクラ ヴィス。その時つい口を吐いて出してしまったことだがその言葉でジュリアスはこの手 紙を連れて行こうと決心したのだった。 ・・・・それは、「リュミエールを愛している」と言ったクラヴィスを思って。何時かこ の手紙を聖地に残る2人が思いだし掘り起こした時にその場にはもういないジュリアス の手紙が読まれてしまったら・・・。自分ではなく他の者を愛するクラヴィスがクラヴィ スの相手がそれを見たら嫌だと・・・不快と感じるだろうとそこまで思ってジュリアスはこ の手紙をあの夜掘り起こしたのだった。 「オイッ!クラヴィス!お前ジュリアスの事好きじゃなかったのかよ!」 ゼフェルはクラヴィスの肩に掴みかかったがクラヴィスの身体の下に夥しく血に染ま ったジュリアスの長衣を見て手を引いた・・・。 「・・・好きだ。愛している」 「だったら何でなんだよっ!何でリュミエールを好きだなんて言ったんだよ!あんたの せいでジュリアスは・・・」 ゼフェルの言葉も終わらないうちにクラヴィスが話す・・・ 「そうだ・・・私のせいだ。ジュリアスは何も悪くはないのに私の自分勝手な感情をジュリ アスのせいにしてジュリアスにぶつけた。回りの者を巻き込んで、自分の稚拙な感情 をぶつけて、自分はそれで心が軽やかになっていた・・・回りの者の気持ちも考えず。 私のせいで・・・お前はそれでも許してくれると何時も思っていたから、今回もお前は許 してくれるとそう思っていたから・・・最後になるとは知らず。お前を傷つけて私は・・・・」 クラヴィスはジュリアスの頬に自分の頬を寄せて静かに涙を零した・・・。 「ジュリアス・・・すまない・・・」 クラヴィスはジュリアスの身体を抱き続けた・・・。 そして、静かに心の中でジュリアス に話しかけていた・・・。 『・・・ジュリアス。すまない・・・私は・・・私は何て事をお前にしてしまったのだ・・・』 『・・・・・。』 『今でも・・・この瞬間にも自分のしてしまった決して戻らぬお前への言葉は私に突き刺さ っている・・・お前はあの時この様な気持ちでいたのだな。』 『・・・・』 『リュミエールを愛していると言ったのは私のお前に対する当てつけだった。何時もは 決して私に‘すまない’等と言わないはずのお前が言うから・・・だから、私は・・・・。 お前が匙を投げたと思ったのだ・・・もういいと・・・私の事を・・・そう思った。だから、 あんな事を言ったのだ』 『・・・・・・』 『ああ言えば嫉妬して、私の元に駆け込んで来るだろうと。あぁ言えば怒って私のと ころに来るだろうと。そう思っていた・・・・ああ言っても、お前は本気にはしないだろ うと・・・・甘えていた。』 『・・・・』 『お前に・・・・甘えていた。ジュリアス、私は何をしてもお前は許してくれるのだと怒り つつも結局は許してくれるとそう思っていた』 『・・・・・。』 『私の甘えがお前を失う事になってしまったっ・・・・。ジュリアスッ、私の声が聞こえて いるだろうか・・・すまない・・・本当に・・・っ・・・ジュリアスどこにいるのだ・・・』 『・・・・ッ。』 『ジュリアス、どこにいる』 クラヴィスは必死にジュリアスを呼び続けた、悠遠の彼方にいるジュリアスに・・・・必 死に呼び続けた。・・・何度も・・・何度も・・・・何度も。血吻に口付けしながら、ジュリアス の血で自分の唇が染まろうともそれさえも愛おしそうにクラヴィスはジュリアスを呼び 続け口付けを続けた・・・。遙か昔に母が呼んでくれた物語のように愛すべき人の魂を黄泉 の国から連れ戻した真繋の誓いの永懐の愛を伝えようとクラヴィスは続けた・・・・。 『・・・・ジュリアス』 頬を滑る涙が止まらない・・・。 『ジュリアス・・・・』 堅くその身が離れぬように抱きしめる・・・。その時・・・ 『ク・・・・ラ・・・・ヴィ・・・。』 ほんの微かな声だが聞こえた・・・。ジュリアスは生きているのだ・・・。 でも、回りの者はそのジュリアスの声には反応を示さない。ただ、ジュリアスを両腕 に堅く抱きしめるクラヴィスを見守るだけ・・・その痛々しい姿を見守るだけしか出来な かった・・・。 『クラヴィス』 『ジュリアスッ。生きているのだな!』 だが、その声はクラヴィスにしか聞こえない聖なる声・・・。たった1人に許された。そ の人を思う人だけが聞くことができる声・・・ 『どこにいる!ジュリアス、今お前はどこにいるのだ!!』 『そなたの来られないずっと遠くの場所に・・・』 『どうすれば逢える?どうすれば・・・・』 『それは、そなたに来るべき時が来たら・・・またその時』 『嫌だっ!今すぐにお前に逢いたい!』 『ダメだ。クラヴィス・・・・』 『ジュリアスッ!ジュリアスッ!』 ジュリアスはそれからはもう私には語りかけてはくれなくなった・・・。お前に逢いたい 今すぐに・・・・この瞬間にでもお前に・・・・ そうか・・・私もお前と同じように眠れば良いのか・・・そうすればお前に出会える。そう だ・・・私もお前と共に眠ろう。 それから、クラヴィスはジュリアスを抱えたまま棺の中に倒れ込んだ・・・ 「・・・・・クラヴィス様・・・・?」 「・・・ク・・ラ・・・・スッ・・・・!」 そう叫ぶ声が聞こえる・・・でも、そんなこともどうでもいい・・・・。この目が覚めれば・・・ きっとお前はまた私の側にいてくれるから・・・・。 ・・・・目が覚めれば、 そうきっと晴朗と広がる空の下で、美しく輝赫する花弁の中でお前に出会えるのだから・・・ 誰か・・・・ 誰か、私の天使の翼を知りませんか? ええ、白くて大きい空を飛べる翼ですよ 私は残念なことに 大切なものをなくしてしまいました どこにいけば取り返せますか? だれかわたしをそこまで連れて行ってください 誰か私の天使の翼を知りませんか? ええ、白くて大きい、空を飛べる翼ですよ はい?ひとは翼を持ってはいけないのですか? 誰が、そんなこと決めたのです ・・・ダレカ、ワタシノテンシノツバサヲシリマセンカ?BACK NEXT