温泉に行こう
−世にも恐ろしい夕飯編−
「良い湯であったな・・・ジュリアス」
「・・・・・(///)」
湯上がりの頬を染めてジュリアスは俯いた。
「どうか、しましたか?ジュリアス様」
リュミエールはジュリアスの顔を覗き込みながら先程の事など無かった事の様に
聞いてくる。
「何だ?先程の事を気にしているのか・・・だから、私が言ったではないかそなたは・・
・・。」
「それ以上言うな!」
ジュリアスは顔を真っ赤にして、クラヴィスの言葉を塞いだ。・・・そうそう裏の
お話になっちゃうしね(笑)
「それよりオスカーは、湯当たりか?リュミエール」
リュミエールの腕の中で姫抱っこをされているオスカーを覗き込む
「えぇ、その様です。引きずって行っても良いのですが後が五月蝿そうですし折角
お風呂にも入ったことですしね。」
「そうか・・・」
守護聖様達は、温泉を出るとぽてぽてと火照った体を心地よい風に吹かれながら
お部屋にと帰っていたのでした。部屋に近付くと、部屋の中から仲居さんがいっぱ
い出てきました。
「お湯加減はいかがでしたか?」
「えぇ、素晴らしかったですよぉ〜。やはり温泉は疲れが癒えますねぇ〜」
「それはようございました。お部屋の中にお夕飯の用意をさせて頂きましたので」
「あ〜それはそれは有り難うございました。」
「給仕の仲居を1人置きましたので・・・」
「いえいえ、結構ですよ。私達でやりますから・・・」
「でも・・・」
困った様に首を傾げる仲居。
「これだけの大人数ですし・・・」
「そうですか?・・・それでは・・・・」
仲居はしぶしぶと言った感じで部屋の中に声を掛けると頭を下げて去っていった。
「何で、給仕の仲居を下がらせちゃったのさルヴァ」
「えぇ、これだけの人数ですしそれに知らない人にいられては皆さんがくつろげな
いかと思いまして・・・・。」
(本当は、大騒ぎになって仲居さんに火の粉がかからないようになんですけどね)
「ぽけーっとしている割りには、結構考えているんじゃない!ルヴァってばっ」
ばしぃっと背中を叩かれて目玉が飛び出るかと思ったルヴァ様でした。
そしてご一行様は部屋にはいると驚嘆の声を上げた。部屋の真ん中にはどどぉーん
大きな船がある何かと思って覗き込めばピチピチの魚や貝がいっぱい盛られていた。
「わぁ−!ルヴァ様、お魚がいっぱいですよ」
マルセルが驚きの声を上げる。
「凄いですねぇ〜。」
ルヴァが真ん中の一際大きな鯛の頭をツンと指先で触ったときである・・・
「ぎゃーーーーーっ!!」
オリヴィエの耳を劈くような声が響く
「なんだよっ!っせーなっ!オリヴィエッ!!」
「だって今、動いたよ!この魚・・・・(泣)」
「んな訳があるか!この魚はもう捌かれてんだぞ・・・」
「そんな事言うなら、触ってみなよ!ホレッ」
オリヴィエはゼフェルの背中を叩いて鯛の前に付きだす。回りにいる皆も何事か
と事の成り行きを見守っている。
「まったく、目ん玉ん中まで化粧してんじゃねーだろーなぁ」
とぶつぶつ良いながらも、ルヴァが触ったように鯛の頭をちょいと触った・・・
・・・・・パクパク。
「うわーーー!!何だよコレ!」
不覚にも?ゼフェルはオリヴィエに抱きついた。
「ちょっとゼフェル!降りな!」
むきーっとゼフェルを引き剥がそうとするが、ゼフェルはぎっちりとオリヴィエ
の服を握ったまま離そうとしない・・・。
「わぁ〜凄いですね。ルヴァ様」
大混乱中の2人を以外にも平然とマルセルは言った。
「おい、マルセル?大丈夫なのか・・・」
こう言う事態の時に一番騒ぎそうなマルセルの意外な行動にランディも驚く。
「?・・・何が?」
「そなたは生き物全てを愛しているのでは無かったのか?」
「えぇ〜?僕は「仔」が付くもの限定ですよぉー。ジュリアス様v」
なんと!?マルセルは以外にも、生き物好きを見せてはいたが「仔」が付くもの限
定だったのだ。確かに記憶を巡らせてみれば・・・「小鳥さん」「仔羊さん」etc・・・
ばかりだ・・・と言うことは大人になった生き物は良いという訳か・・・小さいものは殺
しちゃ可哀想。でも、大人になれば独りで生きていけるから大丈夫?ってな事なの
か?マルセルちゃん!
「っそ、そうか・・・」
「はいっ!」
元気良くマルセルは答えた。
「え〜、これはですね。この国の料理ですよぉー。新鮮さが命です。」
「でっ、でも何だか可哀想だな・・・・。」
ジュリアスは何だか複雑そうな表情をした。
「それでも生きるためには仕方があるまい。ほら、食してみろジュリアス。」
何時の間にジュリアスの背後に回ったのか、クラヴィスが目の前の鯛の切り身を
これも器用に箸で摘みジュリアスの口の中にポイッと放り込んだ。
「・・・・っっ!」
口の中にトロリと甘い風味が広がる。鯛は淡泊だと言われているけれども何とも
この歯ごたえが良い・・・・。生の魚などあんまり食したことは無いが美味い。
「どうだ?」
「美味い!」
ジュリアスは嬉しそうにクルリと振り返ってクラヴィスに言った。その時に先程
の遣り取りを思い出したのだ・・・・この口の中の魚はクラヴィスが食べさせてくれた
のだった。まるで聖地のカフェテラスで見る恋人同士のように・・・。それを思い出
して顔が赤くなった。
「どうしたのだ?ジュリアス。」
「なっ、何でもない」
赤くなった顔を隠すように俯くジュリアス。他の者はと言うとジュリアスが毒味?
をしてこの料理は食べられると判断したからか美食家のジュリアスが美味いと言うな
らば相当美味いのだろうと獣のように目の前の食事を食べはじめたのだった。
・・・・人間とは残酷な生き物である(汗)さっきまでは可哀想。とか気持ち悪い。とか
言っていたにも係わらず、誰かが美味しいと一言でも言えばそれが一転して食の猛獣
とかすのだ・・・・
「ちょっとーっ!そんなに食べるんじゃないよ!アタシの分がなくなっちゃうでしょ!」
「うるへーっ!育ち盛りだからしょうがねーだろ!」
「もうっ!ゼフェルったらお行儀悪いよ〜。こんなに食べ散らかして」
ルヴァは箸を付けようとした物を横からかっ攫われてさっきから何も食していな
い。
「あ〜、新鮮な魚がぁ〜・・・。おや、リュミエール貴方は食べないのですか?」
後ろの方で温泉にあたったオスカーをうちわで仰いでいるリュミエールに聞いた。
「私は結構です。後でもっと生きの良いものを食べますから・・・・ふふ。」
「・・・(ぞっくーん)」
うーん、うーんと唸るオスカーは半覚醒の状態でも自分の危険を察知していた。
「あぁ、そうなのですかぁ〜。」
知らぬが仏のルヴァ爺さんである。
「ほら、もっと食せジュリアス。」
「い・・・・クラヴィス・・・・もう・・・」
ジュリアスは先程からクラヴィスの「わんこ蕎麦」攻撃を受けている。口の中の
ものを飲み込めば、ほれ!次。やれ!次と口の中に刺身を放り込めれている。
クラヴィスはただ単純にジュリアスに喜んで貰いたいだけの行動としてやってい
るのでたちが悪い。
「クラヴィス!」
ジュリアスは我慢の限界にきてクラヴィスの腕を掴んだ。
「何だ?」
「もう、いいから。そなたも食せ・・・・」
「そうか・・・・」
何なのだ、その悲しそうな顔は!私は何も悪いことはしていないのにそんな顔を
されると私が悪いことをしたみたいではないか!
「・・・わかった。」
「待て、クラヴィス。」
席を立とうとしたクラヴィスを呼び止める。
「わ、私がそなたに食べさしてやるから・・・」
「そうか、ではお言葉に甘えて」
何だ!そなたのその変わり様は!今、世界の終わりのような顔をしていたではない
かっっ!!・・・・もしかして、私は騙・・・・・
「ジュリアス、何をしている。早く食べさせてくれ・・・」
おずおずと手を伸ばしてクラヴィスの刺身の切り身を口に持っていくと、とても
嬉しそうな顔をして食べた。そうか、こう言う顔が見たくてクラヴィスはやってい
たのだな。
とジュリアスは内心思っていた。そんな人達を恨めしそうに箸を加えて見ながら
先程から刺身の具(つま)をぽそぽそと食べながらルヴァは「やっぱり、仲居さん
を断って良かった」と心底思うのでした。
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