Lilium
あれからどれくらいの日々が過ぎただろう・・・・。
クラヴィスが居なくなって私の心は凍ってしまった・・・。
凍てついた闇に囚われてしまった。
クラヴィス・・・そなたに会いたい・・・
それでも私には守護聖と言う枷が付いていて
そなたの側に行けない・・・・。
「私ではなく・・・他の愛する者と幸せになれ・・・」
そう言ったそなたはもう、別の誰かを見付けてしまっただろうか・・・。
私以外の誰かをそなたは愛しているのだろうか・・・。
私の心はそなたに向かうばかりで・・・
別の誰かを愛することなど出来ない・・・。
・・・・それも。良いかもしれぬ・・・・。
そなたの知らないところで、私は勝手に思っているのだから・・・・。
そなたには関係の無いことだ・・・。
・・・クラヴィス、そなたに会いたい・・・・。
あいたい・・・。会いたい・・・。逢いたい・・・。遇いたい・・・。
それも、もう願わない事なのだろうか・・・・。
「ねぇ・・・。ルヴァ、どうにか出来ないのジュリアスの事。クラヴィスが居なく
なってから生ける人形じゃないのさ。アタシイヤだよ!あんなジュリアス見て
るの・・・。ジュリアスはもっと威厳に満ちて、厳しくて、それで・・・・・」
パタッとテーブルクロスに涙が落ちた・・・。
「オリヴィエ・・・貴方。」
「泣いちゃ悪い!アタシあの2人の事好きなんだ・・・。ジュリアスはアタシに(も
っとましな格好は出来ないのか)とかクラヴィスはクラヴィスで何もやってい
ない様だけど、居るとほっとするし・・・アタシ確かに2人の事邪険にしてたよ!
それは認める。だけど・・・なんだかさ。今のジュリアス見てるとさ・・・・。」
(マスカラが落ちちゃうじゃない・・・)とオリヴィエは涙を拭った・・・。テーブルを挟
んだ向かいにはルヴァが居る。
「オリヴィエ・・・私も貴方と同じ気持ちです。今のジュリアスを見ていると胸が痛み
ます。・・・ですが」
「(ですがサクリアがある以上はどうしようもないのですよ)って言うんでしょ。
分かってるわよ!そんなこと充分すぎる程・・・。それでも、知恵を司るアンタだか
ら何かいい考えが浮かばないかなって思っただけよ・・・。ごめん・・・。こんな事言
われても困るわよね・・・。」
2人の間に沈黙が降りる。春なのに冷たい風が2人の間を吹き抜ける・・・。心まで冷た
くなってしまうような、空はあんなに晴れやかなのに吹く風はとても・・・とても冷たい。
「2人ともそんなにしみったれた顔をどうする。そんな顔がジュリアス様をまた苦し
ませるんだぞ・・・。」
春の青く茂った木の下にいつの間にか居たオスカーが腕を組んで木に凭れていた。
「悩んだってどうしようもない。俺達は守護聖でサクリアがある以上、ここからは出
れない。この見た目だけ明るいご立派な聖地からは自分の意志では決して出られな
いのさ・・・。陛下も補佐官も守護聖も・・・・」
「オスカー・・・。貴方はその様に考えていたのですね・・・・」
ルヴァが悲しそうに瞳を伏せる。
「良いところだけど・・・悲しいところだよね。・・・聖地ってさ」
オリヴィエの言葉に誰もが口を噤んだ。そう、ここは人も羨む聖地。誰もが羨望して止
まない守護聖。だけれど・・・その裏ではとても悲しい思いを皆、隠している。親を友だち
を親友を・・・そして恋人も全て奪われて、聖地に宇宙に女王に忠実であれとここに連れて
こられた・・。聖地にきた時はそれは嬉しく自信に満ち、誰もが羨むその地位に優越感を得
たけれど・・・・。次第にその悲しさが解ってくる・・・。友の居ない淋しさ。親の居ない悲しさ
。恋人の居ない辛さ。それが、優越感に目が覚めた時に解ってくる。ただ、ここに連れて
こられた時の馬鹿馬鹿しいキモチでその全てを忘れていた自分に・・・・時間が経つ度に解っ
てくるのだ・・・。その内に守護聖はあらゆるものに諦めを付けてしまう。思ってもしょうが
ないのだと・・・。そして、恋など恋愛など愛など本気にしてもしょうがないのだと諦めてし
まう。
「・・・俺達がジュリアス様に今出来る事は、心の支えになって差し上げることさ・・・。」
オスカーが辛そうに堅く瞳を閉じたまま言った。
「心の支え?」
「あぁ、そうだ。ジュリアス様は人に私事の事でなんか相談はしない。あの御方はあ
の執務に対する表情を今は崩さなくなってしまっただがそれでも、ジュリアス様が
ふとした時に見せる寂しげな瞳に気づけばそれで良い・・。ジュリアス様は今酷く悲
しんで居られるのだと気付く者がいればいい・・・。あの御方は変に哀れられたり、同
情されるのをもっとも嫌われる方だから・・・。」
「ジュリアスが悲しんでいるのを解ればいい・・・・か。」
「そうですね・・・。ジュリアスはクラヴィスが居なくなっても一見は何の変わりも感じ
ないですものね。でも、見る者が見れば解りますよね・・・。」
「あぁ・・・付き合いが長い分、側にいる分、あの人の本質を解ろうとする分。見る者が
見れば解るのさ・・・。ジュリアス様が悲しんでおられる時に(大丈夫ですよ)とか
(会えますよ)とかそう言う無責任な事は言わない事だな。」
オスカーは瞳を開きオリヴィエの直ぐ側に腰を下ろした・・。
「そうだね・・・。その言葉を聞いて一番傷つくのはジュリアスだもんね。会えない事が
解っているのはジュリアス本人だもんね・・・。」
「えぇ・・・時間の流れが違いますからね・・・。惑星によっては私達の聖地での一週間が
何百年になるところもありますからね・・・。」
「そうだな・・・・。」
オスカーの声は震えてた。一番側にいる自分が何も出来ないことに情けなさを感じてい
るのかも知れない。何も出来なくて悲しみに壊れていくジュリアスの心を見るだけしか出
来ない歯がゆさに・・・。
「オスカー・・。アンタさっき泣くなってアタシに言ったじゃない・・・。」
オリヴィエもオスカーの涙につられてまた涙が出てきた・・。
「すまない。・・・今だけ、今だけ許してくれないか・・・。俺はジュリアス様の前では強
くなければいけないから、そうしなければジュリアス様の心が迷うから・・・。すまな
い・・・オリヴィエ、ルヴァ今だけだ。・・・許してくれ。」
「えぇ・・・オスカー。どうぞ、この場所では泣いて下さい。この蒼天の大空の下では少
しは私達の思いが和らぐかも知れません。」
ルヴァは大きく蒼天を仰いだ。空を見るとそれはそれは素晴らしい青い空で吸い込まれ
そうだった・・・。そしてその空の
大きさにルヴァもまた、涙が出てきた・・・・。
「人とは無常ですね・・・・。」
大きな母なる蒼天の空はそんな3人を見下ろしていた。
オスカー、ルヴァ、オリヴィエはその後は何時も通りに過ごしていた。馬鹿なことをして
はジュリアスに怒られ、ジュリアスに忠実な片腕となり、時にはジュリアスの頭脳として・・
・3人は3人なりにちっぱけな事かも知れないけれど、1人1人が精一杯自分なりに頑張って
いた・・・。
そして、半年も経っただろうか・・・。ルヴァの館に早急にきて欲しいとオスカーとオリヴィ
エは呼ばれていた・・・。
「何さ、ルヴァ早急に来て欲しいなんて・・・。何かあったの?」
何時まで断っても用件を言おうとしないルヴァにオリヴィエが聞いた・・・。
「すみません・・・・実は・・・・」
ルヴァはこれ以上先に延ばしてもしょうがないことは解っていたが言いずらかった。何と言
って良いのか解らなかった。
「何だ?ルヴァどうした。」
「実は・・・・クラヴィスが・・・・」
2人はルヴァの口から出た名前に驚いた。この半年、一言も出なかった名前だ。どんな所で
ジュリアスに聞かれるか解らなかったので3人はクラヴィスの名前を禁じていたのだ・・・。
「クラヴィス様がどうしたんだ!」
オスカーが掴みかかるようにルヴァに近寄った。
「えぇ・・・。まず、最初から話しましょう。私はクラヴィスの居場所を王立研究員のエ
ルンストと共に内密に探していました。ですが、王立研究員のネットワークを屈指
してもクラヴィスの居所は掴めなかったのです。クラヴィスの故郷を探したのです
が、もう大分前に消滅していたことが解ったのです。それでも私達は半年間探し続
けました・・・。それで、エルンストから先程連絡が入ったのです(クラヴィスが見つ
かった)と・・・」
「見つかった!」
「ホントなのか?ルヴァ!」
2人は嬉しそうに声を弾ませた2人ともまだ何故ルヴァがこんなにも慎重に話を進めている
のか解っていない。
「落ち着いて下さい。2人共、クラヴィスは・・・・」
「あっ・・・・」
2人はそこで気が付いた・・・。下界ではどれくらいの時が過ぎていたのだろう・・・その事を考
えると身震いがした・・・。
「クラヴィスは下界に降りて1週間とも経たない内に事故で亡くなったそうです・・・・」
「なっ・・・」
「何でだ!!ルヴァ!」
オスカーはルヴァの胸ぐらを掴んだ。それがお門違いだとは充分すぎる程解っていたのにそ
の怒りを何処にぶつけて良いのか解らなかった・・・。
「車道に飛び出す子供を庇ったそうですよクラヴィスは・・・子供は無事だったそうで
す。ですがクラヴィスは・・・・しかもその子供容貌が・・・いえ、止めておきましょう」
ルヴァは手で顔を覆った。なんて・・・なんて事なのだろう・・・。守護聖を解かれて・・・。この檻か
ら出て直ぐに死ぬだなんて・・・。飼い慣らされた小鳥はかごから出されたら直ぐに死んでしまう
ようにクラヴィスは死んでしまった・・・。
「・・・ジュリアスは?」
「勿論知りません・・・教える事なんて出来ません。」
「そうだな・・・。」
この事をジュリアスが知ったらどうなるだろう・・・。薄々は感じていることが事実として他人
から知らされたら・・・。
「知らせない方が良いだろう・・・。」
「えぇ・・・そうですね・・・」
「確かにね・・・。何だかジュリアスに会いたくなっちゃったよ・・・何時も会ってるのに
ね。可笑しいな・・・ふふっ」
力無くオリヴィエは笑った。何故かジュリアスに会いたくなったジュリアスの声を確かめた
くなった・・・。
「ごめん。アタシ、ジュリアスに会ってくる・・・。」
「待て、オリヴィエ。俺も行く・・・」
「あー、私も一緒に連れて行ってくれませんか・・・・」
オリヴィエは頷くとルヴァの館を後にした・・・。
ジュリアスは何処へ行くともなく・・・ただ、森の中を歩いていた。ただ何となく歩きたくな
ったのだ・・・。クラヴィスの好んだこの森を・・・。
・・・・クラヴィス。最近は誰もその名を口にしようとはしなくなったな・・・。忘れてしまったの
か?皆・・・あの闇の守護聖を・・・執務など真面目にはしなかったがそれでも人の安らぎになるよ
うにと疲れた守護聖の為にと密かにサクリアを送っていた。クラヴィスを忘れてしまったのだ
ろうか・・・・。
その時ツキンッと胸が痛くなった・・・。何故だか最近胸の痛むときがある。それは一時のもの
だと思っていたが最近は次第に数や時間が増えてきた・・・。
「私も、もう時が来たのかも知れぬ・・・。」
そう言って嬉しそうにジュリアスは微笑んだ・・・。その時が来るのが嬉しそうに・・・。
暫く歩いた時に目の前に鬱そうと茂る木々が見えた。視界を塞ぐ木々はまるで何かを必死に
隠すように寄り添っていた・・・。そして、懐かしい香りがした。クラヴィスが聖地を去ってから
、ただ一度も側に寄りつけなかった・・・あの懐かしい香りがした。ジュリアスは必死に木々を払
い除けて木々を掻き分けてその先にと進んだ・・・。金糸が木の枝に取られようとも気にせず、だ
た前に進んだ・・・。
そして、木々を抜けるとそこには白い絨毯が広がっていた・・・。それは、クラヴィスのくれた
「Lily」・・・。あの真っ白な「Lily」お前に似合うからとクラヴィスのくれた「Lily」。そ
れを見てジュリアスは無我夢中で走った・・・胸の痛みが増したけれどそんな事は関係なく・・・。
だた、ひたすらに会いたかったその人を見付けたようで・・・。ひたすらジュリアスは走った・・。
「クラヴィス・・・クラヴィス・・・・クラヴィスッ・・・・・」
闇雲に走っていたジュリアスは足を取られ、「Lily」の花に埋もれた・・・。片手を伸ばして
1つ手に取る・・・。
「・・・クラヴィス、逢いたかった・・・とても、だた逢いたかったのだ・・・・私は・・・」
胸が一層に痛みを増す・・・。呼吸も荒くなってくる・・・・。
「・・・クラヴィス・・・私がそなたの場所にいっても大丈夫だろうか・・・そなたの傍らまだ
空いているか・・・?私の傍らは空いているぞ・・・私はそなた以外愛することなど出来
ない・・・。そなた・・・1人だけで・・・いい・・・。」
サワサワと「Lily」か風に揺れた甘い香りがジュリアスを包む・・。その風を感じるとジュリ
アスは微笑むと瞳を閉じた・・・。とても幸せそうな顔をして・・・・。
ここはクラヴィスの居た惑星・・・。そこにこの惑星1高いと言われる海を見渡せる丘がある・
・・その丘に真っ白な「Lily」に包まれた墓石がある・・・。その墓石にはこう記してあった・・・
『我が人生を
汚れ無き「Lily」に捧ぐ・・・・Clavis』
風に運ばれ「Lily」の甘い香りは青々と広がる海に広がっていた・・・。
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「Lily」・「Lilium」はゆりの事で花言葉は純潔などがあり。
とある地方の伝説では、愛し合う男女が引き裂かれ、その苦
しみの為に乙女が百合の花に姿を変えるというお話がありま
す。
この様な終わり方では「読んで下さった皆様に納得して頂
けないかも知れない・・・」と悩みましたが・・・どうしても私は
このお二人を会わせてあげたかったのです・・・。身体よりも心の
繋がりを書きたかったのです・・・。