Fragaria×ananassa
森の奥深くに赤い屋根の小さな小屋に2匹のウサギが住んでいました。1匹は 白いウサギ名前はジュリアス、1匹は黒いウサギ名前はクラヴィス。2匹は仲良 く暮らしていました。ウサギと言ってもこの2人?まるっきりウサギと言う訳で はありません。姿は普通の人間、ちゃんと二本足で歩いていますどこが違うかと 言うと耳がウサギなのです。普通ウサギの耳と言えばピンと立っていますが、そ れもウサギによってはまちまち・・・ジュリアスは白い耳をピンと立てていますが クラヴィスは黒い耳をてれっと垂らしています・・・。種族としてこの2人は『ウサ ギ族』と言います。 「クラヴィス、今日の夕飯は何にする?」 クラヴィスの年齢は人間で言うと25歳、ジュリアスの年齢は10歳。2人の 出会いは、ある日ジュリアスの両親が病気で他界してから森を彷徨っていたジュ リアスをクラヴィスが拾ったことから始まります。クラヴィスの家は今迄は誰も 訪れることのない静かな家でしたが、ジュリアスが来てからは楽しそうな笑い声 が耐えることのない家になっていました。 「別に何でも良い・・・お前の好きなようにするが言い・・・」 (何時もクラヴィスはこう言う。(別に・・・・好きなように・・・・面倒だ・) いっつも私、任せでしょうがない。) 「分かった、適当に作るから・・・あっクラヴィス何処に行くの・・・・」 「地下で薬草の調合をしてくる・・・食事が出来たら呼んでくれ」 (クラヴィスはそう言うと出ていってしまった。まぁ良いんだけどね。何時もの 事だし・・・。さぁ、何作ろうかなぁ〜クラヴィスは適当って言ったけど本当に適当 に作るとムッとするし・・・何が良いかなぁ・・・。) ジュリアスは色々と考えた結果、グツグツ煮るだけで作れるシチューとパンと サラダにしました。 「クラヴィスゥ〜、ご飯が出来たよぉ〜」 地下室に聞こえるくらいの大きな声でジュリアスは叫びました。すると地下の 階段からのっそりとクラヴィスが出てきます。ウサギは良く動いて俊敏と言うけ れど、どうやらクラヴィスはそうではないようです。 「分かった・・・ジュリアス。ほら、これをやろう・・・」 クラヴィスは籐で編まれたカバンをくれた。何でだろう? 「ありがとう、でも何でくれるの?」 「忘れたのか?明日から学校に行くのだろう?」 (そうだった、私は明日から学校に行くんだった。クラヴィスのお友達のルヴァ がこの間やって来て、「遊ぶ事も大切ですが大勢の人の中で協調性を学ぶこと、 友達を作ることや勉強することもとても大切なのですよ」と言ったのでクラヴィ スも「そうだな・・・」って言ってルヴァが先生をやっている学校に通うことになっ たんだ。) 「うん、そうだった。明日から学校に行くんだった!ありがとうクラヴィス大切 にするね・・・」 とっても嬉しそうにジュリアスは微笑みました。その笑顔にクラヴィスは弱いの です。今にも鼻の下が床に届きそう・・・。 「あぁ、そうしてくれ・・・。」 何とか自制をして、何時もの無表情で答えました。ジュリアスの作った料理を2 人で食べました。まだ10歳のジュリアスが作ったのですから、見た目が悪いです が味は何とも大変美味しいものでした。夕飯を食べ終わり、2人は食後ののんびり タイムです。ソファーに座って、くつろいでいましたその時、クラヴィスがジュリ アスを膝に乗せて言いました。 「ジュリアス、1つ約束して欲しい事がある。」 「なぁ〜に?」 「明日学校へ行くだろう?絶対に私と一緒に住んでいる事は秘密にしておくこと」 「何で?」 「いいから約束すんだ。お前の為なんだ分かってくれ・・・。」 (そう言うとクラヴィスは少し困った顔をした。クラヴィスがこんな顔をするなん て滅多にないことだもん。本当に大切な事なんだ・・・) 「分かった、約束する。」 「あぁ・・・」 2人は小指を絡ませて指切りげんまんをしました。2人だけの『約束』が嬉しか ったのか、ジュリアスは指切りげんまんをするとクラヴィスに抱きついて来ました。 「えへへ・・・」 すりすりと頬をクラヴィスの胸に寄せて来ます。クラヴィスはジュリアスを抱き しめると 「もう遅い・・・ジュリアス寝よう。」 「・・・・うん」 パチンッ。 部屋の電気が消され、2人の姿は寝室に消えていきました・・・。(ここから先は、 とても教えられません(汗)) 翌朝、学校の支度に忙しく家の中を走り回っているジュリアス・・・。 「あ〜!もう時間がないぃ〜。クラヴィス行ってきます!」 「ジュリアス、忘れ物だ・・・。」 クラヴィスは背を屈めるとジュリアスの唇にちゅっと口付けをしました。 「行ってきます!」 (楽しそうだな・・・。何時も私と2人きりの生活だからな、他の者と会えるのが楽 しいのだろう・・だが、私との約束をきちんと守れるか心配だ。) クラヴィスは、ジュリアスの姿が見えなくなるまで見送りながらただ2人が交わ した約束をきちんと守ってくれるか・・・心配しているのでした。2人がした約束と 言うのは『クラヴィスと一緒に住んでいると言うことは言わない』と言うことです が果たしてジュリアスはこの約束を守れるのでしょうか? ・・・一方、ジュリアスはと言うと始めての学校で始めて会う生徒の前で緊張しなが ら自己紹介をしていました。生徒の皆は興味津々にジュリアスの事を穴が空くほど 見つめています。 「ジュリアスです。よろしく・・・・」 ぺこっと頭を下げるジュリアスに生徒の皆はジュリアスの可愛らしさに目を奪わ れていました。 「皆さん、仲良くして下さいねぇ〜」 「はぁ〜い!」 担任のルヴァが言うと生徒の皆は大きな声で返事をしました。 この学校は青空の下で学ぶ森の学校で席は決まっていません、来たもの順に好き な席に座っていいのです・・・。ジュリアスは1つ空いている切り株の椅子にちょこん と座りました。隣には目が赤い白ウサギと目も茶色い茶ウサギが座っていました。 「俺、ランディって言うんだ。よろしく!」 「・・・オレはゼフェル。仲良くしてやってもいいぜ」 茶ウサギのランディはニコニコ。白ウサギのゼフェルはツンッとそっぽを向きな がらジュリアスと握手をしました。2人はそれからも親切にしてくれて入ったばか りのジュリアスには教科書がないので見せてくれたり、分からないところを教えて くれたりしました。そして、お昼の時間・・・ 「おい!ジュリアス、昼飯一緒に食べよーぜ!」 グイッとジュリアスの腕を掴んで自分の隣に座らせました。 (何だかジュリアスって同じ白ウサギなのに何か違うんだよな・・。金色の髪が緩く 波うってキラキラしてて綺麗だなぁ〜。目も青くて綺麗だし・・・。) 「ゼフェル、どうしたの?」 さっきからじ〜っと見ているゼフェルを不信に思ってジュリアスが声を掛けると ゼフェルは顔を赤くしました。 「なっ何でもねーよ!早く食べようぜ!!」 「うっ、うん・・・」 (変なの、ゼフェルってば・・・急に赤くなったと思ったら、いそいそとお弁当の支 度して・・・) 〔ゼフェルが変なのはジュリアスに見取れていたからなんだよ〕と言うことを知ら ないジュリアスは〔変なゼフェル。〕と思いながらもお弁当を広げてました。 ゼフェルのお弁当はおにぎり、ジュリアスのお弁当はサンドウィッチの様です。 「うまそうだな、ジュリアスの弁当。」 「そう?自分で作ったんだ!」 ジュリアスは早起きして作ったお弁当をゼフェルに褒められて嬉しそう・・・。 「なんだ?ジュリアスって1人で暮らしているのか?」 「ううん、違うよ。」 「じゃぁ、誰と住んでいるんだよ・・・・」 (あっ!どうしよう。1人暮らしだよって言えば良かった・・・。クラヴィスとの約 束が・・・) 「おい!ジュリアス!誰なんだよ・・・」 「あっあのその・・・」 しどろもどろ、ビクビクおどおどのジュリアスをゼフェルが責め立てています。 ジュリアスの前に立って腰に手を当てて恐ろしい目つきで睨んでいます。 「黒ウサギと・・・・」 「黒ウサギ〜?名前は何だよ・・・。」 「クッ、クラヴィス・・・・。」 「クラヴィスだとっ!!」 ゼフェルはジュリアスの腕をギチッと力いっぱいつかみました。 「いっ痛いよ。ゼフェル!」 「クラヴィスなんかと住んでるのかよお前!クラヴィスがどんな奴か知ってるのか よ!クラヴィスはなぁ、変な術を使って皆に悪さするんだぜ!」 「そんなコトしないよ!クラヴィスはっ!」 「この間、病気のティムカの家からクラヴィスが出てきたんだぜ!あれは絶対クラ ヴィスがティムカを術で病気にしたんだ!なぁ皆もそう思うだろ?」 ゼフェルはクラスの皆に聞こえるように大きな声で言いました。クラスの皆は先 程から始まったゼフェルとジュリアスの言い合いに耳を傾けていましたジュリアス と目が合うと皆視線を外していきます・・・と言うことはクラスの皆もゼフェルと同じ ように思っていると言うことで・・・・ 「・・・酷いよ、皆クラヴィスはそんなことしないもん・・・」 「だって、現にティムカが病気じゃねーか!!」 「あれはティムカが病気になったっていうから、クラヴィスが薬草を調合して作っ たお薬を届けに行っただけだもん。なのに酷いよ。皆、クラヴィスは何も悪いこ となんてしてないのに・・・」 「うるせーっ!」 ゼフェルはジュリアスのお弁当を叩き落としました。ジュリアスが早起きして作 ったお弁当が地面にぐちゃっと落ちて・・・それは、クラヴィスが朝〔美味しそうだな ・・・〕と褒めてくれたお弁当でした・・・。ジュリアスの青い瞳には涙がいっぱい溢れま した・・・。 「ゼフェルも皆も大っ嫌い!!」 そう言うとジュリアスは走り出しました・・・。一刻もクラヴィスに会うために・・・ 扉を激しく叩く音がしてクラヴィスは玄関の扉を開けるとジュリアスが泣きなが ら抱きついてきました・・・。 「クラヴィス、ごめんね、ごめんね。私は知らなかった・・・」 クラヴィスはジュリアスのその一言で何があったのかが分かりました。ジュリア スがどんな思いをするのか知っていたからこそジュリアスに言わなかったのです。 自分のことはいい、ジュリアスのことを思ってしたことでした・・・。 「ジュリアス・・・・そんなに泣くな・・・。」 「うっ・・・・・うぅ・・・・」 (知らなかった、知らなかった。クラヴィスが皆にあんなことを言われていただなん て、クラヴィスが外に行った時怪我をして帰ってくることが多かった。顔に擦り傷 とかいっぱい付けて返って来た・・・クラヴィスは〔転んだだけ・・〕って言ったけど、 あれは石とかぶつけられた傷だった。クラヴィスは何時も笑って言うから・・・気付か なかった・・・・。) 「ごめんね、クラヴィス・・・やっ約束・・・やぶっちゃった」 「いい・・・気にするな。私もお前に言わなくて悪かった・・・。」 髪を梳いてジュリアスをさっきよりも強く抱きしめました・・・ 「クラヴィスの事、皆に言っても誰も分かってくれないんだ・・・」 「別にいい・・他の誰でもない。お前に私と言う者が分かっていてくさえいれば・・・。 他の誰にどう思われようとも気にはしない・・・・。」 「・・・・・クラヴィス。」 ジュリアスはクラヴィスの黒い髪を一房取ると頬に擦り寄せました・・・。 「クラヴィスの事誰も分かってくれなくても、私がクラヴィスの事全部分かってる し・・・。クラヴィスが誰かにいじめられたら、私が守ってあげるからね!だから安 心してね!クラヴィス!」 「・・・・・あぁ・・・」 そう言うとクラヴィスはジュリアスの頭を引き寄せました・・・ジュリアスの視界は クラヴィスの肌触りの良い洋服に埋もれています・・・ 「どうしたの?クラヴィス・・・・」 「・・・・・・・何でもない・・・・」 クラヴィスは震えていました。それは悲しみではなく喜びでした・・・ジュリアスの 言った言葉がクラヴィスの長年の心の氷を溶かしたのでした。 それほど、クラヴィスの心の氷は厚く冷たく重たいものでした。クラヴィスはそ の氷を長年耐えていたのです・・・〔仕方がない、どうしようもない、〕それも疲れて しまってもう、全てを諦めようとした時にジュリアスに出会ったのです・・・。 「・・・・・ジュリアス」 「・・・・・・?」 「・・・ありがとう」 「うん・・・・」 何を〔ありがとう〕かジュリアスは最初分かりませんでした・・・。だけど、クラヴィ スの何かほっとしたような・・・胸の突っかかりが取れたような顔をしていました。そ れでジュリアスはクラヴィスが〔ありがとう〕と言った意味が分かったような気がし ました。そして、2人はその夜寄り添って寝ました。身体の暖かさを確かめながら寄 り添って寝ました。 ・・・・・コンコンッ。 翌朝、早く玄関の扉がノックされました。珍しく早く起きていたクラヴィスはジュ リアスの寝顔を愛おしそうに見ていましたが玄関の扉がノックされたのを知ると起こ さないようにそぉ〜とベッドから出て玄関に向かいました。 ・・・・・コンコンッ。 扉がまたノックされました。クラヴィスはゆっくりと扉を開けると目の前には目の 赤い白ウサギが籠を抱えて立っていました。何だか所々汚れています・・・ 「何の用だ?」 「アンタがクラヴィスだろ?ジュリアスにこれ渡してくれよ!」 グイッとクラヴィスに籠を突きつける。 「何だ?これは・・・」 「いいから、渡してくれよ・・・・それと悪かったなって言っといてくれ・・・・アンタに も悪かったな・・・・」 ぶっきらぼうに言うとその白ウサギは走って行ってしまいました。クラヴィスが 呼び止めようとした時、そのウサギはくるりと振り返って叫びました・・・。 「それともう1つ言っておいてくれよ!!皆、ジュリアスが学校来るの待ってるから って・・・じゃな!」 名前も言わずにそのウサギは走り去ってしまいました・・・。 「名前も言わないで帰ってしまっては、伝えづらいではないか・・・なぁ、ジュリアス?」 先程からベッドから起きて、柱に隠れていたジュリアスにクラヴィスは言いまし た。 「・・・ゼフェル」 「ほら、ジュリアス。ゼフェルとやらが持ってきたものだ・・・」 ゼフェルが持って来た籠の中は真っ赤な苺でいっぱいでした。 「ジュリアス・・・どうした?」 「学校に行って来る・・・・」 「・・・・そうか、早くしないと遅刻するぞ。」 「うん!」 そう言うとジュリアスは急いで着替えて朝食を済ませると学校に行こうと玄関で 靴を履いている時、先程ゼフェルが持ってきてくれた苺の籠が眼に入りました。お 行儀が悪いことは知っていたのですが、ジュリアスはクラヴィスが見ていないのを 確認すると真っ赤な苺を1つ手に取って口の中に放り込みました。口の中には甘ず っぱい味が広がりました・・・。ジュリアスはそのまま家を出ようとするとクラヴィス に呼び止められました・・・ 「ジュリアス、忘れ物だ・・・・」 「えっ?」 クラヴィスはちゅっとジュリアスの唇に口づけをして学校に送り出しました・・・。 春の陽差しのように幸せな2人は、森の奥深くの赤い屋根の小さな家で幸せに暮らし ましたとさ・・・・。 back 「Fragaria×ananassa」はいちご(苺)の事で学名です。 花言葉は「幸せな家庭」・「無邪気」・「先見」・「誘惑」・「 尊重と愛情」・「甘い香り」・「貴方は私を喜ばせる」等・・・。 アングロ・サクソン民族は幼い子供が死ぬとその亡骸をイチゴで 覆っていたそうで、天に昇った子供達の魂は地上のイチゴにも宿る と言われ、子供達に死を運ぶと言うことから、イチゴは食べない方 が良いと信じられていた時代もあったそうです。「何か可愛い謂わ れがあるのかなぁ〜?」と思っていた私には意外なお話でした。 でも、「幸せな家庭」と言うのは親株から多数の小ヅルが出てい るイチゴは一見「幸せな家庭」に見えるそうでこの花言葉も付いた ようです。