ストローク
          「オスカー人の【愛】と言うモノ不思議だと思いませんか?与えるだけでは物足りな            く与えられるだけでも物足りない・・・・欲しい、欲しいと品物としては売っていなく            強請っても誰からも直ぐには貰えない・・・・」           「ルヴァ・・・・お前は何を言おうとしているんだ・・・・・」            ルヴァが質問している事の内容の糸が掴めない。一体何をこの言葉に含ませている           のか・・・・・           「ジュリアスは母親から愛されなかったのです。」            意を決したようにルヴァはオスカーを見据えこう言い切った。           「愛されなかって・・・・そんな・・・・」            母親とは自分の命を懸け産み落とした自分を分身と言える人格を無条件で愛するも           のではないのか・・・・。母性と言うものがあって心の底から湧き出るような愛情を自分           の子供に耐えず注ぐのではないのか・・・・           「ジュリアスは母親のお腹の中に居た時から聖地に召還される事を知っていたと言い            ましたね」           「あぁ・・・・」           「全てはそれが原因でした。本来ならば知らされる筈のない情報がどこからか漏れジュ            リアスの母親に知れてしまった・・・・・。母親は自分のお腹の子供が聖地に召還される            事を知り、落胆した。なんせこれから共に生きていこうと思った矢先にその相手が            居なくなるのですから・・・・。そして母親はどうせ自分の前から居なくなる子供なら            ば【いらない。】と思ったのですよ。自分の身体の中で成長し【ヒト】となるジュ            リアスに産まれ出てからもその手に一度も抱かなかったと聞きました・・・」                       オスカーは悲しみに打ちひしがれた・・・。何と言うことだろう・・・産まれた時から母           にも抱かれずあの人は育ったというのか・・・           「乳母が居たらしいですが、そこは大貴族。守護聖となるべき人間に恐れ多くも・・・            と言う感じで乳母は義務を果たせばそれまでだったようです。ジュリアスとも遊ん            だ事も無いようですよ・・・。」            育ての乳母でさえその様な態度でジュリアスに接していたのかと思うと不可能なが           らも自分が何故その場に居なかったのかと悔やまれる。           「それを知った聖地は10歳と言う約束を違えてもジュリアスを聖地に召還する必要が            合ったのです。」               「それは?」           「それは・・・・ジュリアスが死ぬからです。」           「死ぬ!?どう言うことだっ」           「オスカー人とは愛情を受けて成長するものなのです。その愛情が無いと人は死んでし            まうんですよ・・・・ウサギは寂しいと死んでしまうと言う言葉がありますが人間も然り            なのです。             母親からの刺激つまりストロークですね。これを受けない子供は死亡率が高いので            す。乳児が周囲から、撫でる、触る、揺する、微笑みかける等の肌に触れ合うという            ことが少ない子供は背骨が曲がったり、死亡する率が高いのです・・・・。だから、聖地            側としてはジュリアスを一刻も早くこちらに呼び寄せる必要があったのです・・・」           「でも、聖地側は間に合ったんだな・・・・。だから、ジュリアス様はあの様に・・・」            オスカーは安堵したように今迄詰まっていた息を開放した。            良かった・・・ジュリアス様は間に合ったんだ。5歳で召還されて無事にそれから過ごし           たんだ・・・この聖地で・・・・            するとルヴァがまるで死の門番の様な暗い声で呟いた・・・           「いえ、オスカー。聖地は間に合わなかったのです・・・・」                        外に吹き荒れる風は一層に激しさを増し、遠くから暗黒の雲を運んでいた・・・それは           黒く黒く、徐々に聖地を覆っていった・・・。              ルヴァの執事の入れたお茶からは暖かさを知らせる最後の湯気がスゥと一筋立ち上っ           ていた。
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