今、いない君を思う・・・。会いたい・・・会いたい・・・会いたい・・・。 勿忘草
貴方が居なくなってどれくらいの時が流れたのだろう、心が・・・。 心が全て無くなってしまったのだろうか・・・ 貴方が居なくなったというのに何も感じない 涙も一筋も流れない・・・ こうして笑っていられる、こうして毎日を過ごしている・・・。 貴方が居なくなったら、生きては行けないと思っていた・・・。 ─────なのに ・・・ 俺はこうして生きている・・・貴方が居ないのに息をしている・・・ 貴方が居ないこの場所は、まるで彩りの消えた絵画のよう・・・ 色彩の消えた世界・・・ そして、今日も一日が始まる・・・ 貴方の居ない・・・ 今日が始まる・・・ ジュリアス様の補佐として、ずっと俺はあの御方の側にいた。ずっと側に 居れると思っていた・・・。なのに、あの人は消えてしまった・・・。居な くなった。宇宙のどこからも消えてしまった・・・。 「オスカー様ぁ」 オスカーが庭園を歩いていると、前から花で埋もれた少年が近づいてくる。 その少年はオスカーの目の前で止まると手に余るほどの花をオスカーに渡した。 「マルセル、なんだこの花は・・」 その少年は、緑の守護聖マルセルだった。 「オスカー様が元気になったお祝いです!」 「元気?」 オスカーの顔が僅かに曇る。 「ええ、ジュリアス様の事があって以来、ずっと、お元気がなかったので、 皆心配していたんですけど、でも元気になられたみたいだから。そのお 祝いです」 屈託のない満面の笑みで、マルセルは言う 「お元気になられたか・・・」 「えっ、何ですかオスカー様」 オスカーの言ったことが聞こえなかったのだろう、マルセルは聞き返し てきた。 「何でもない。マルセル、花ありがとうな」 そう言って、オスカーは庭園を後にした。胸に傷を抱えながら、歩き出 した・・・。 ─── オスカー様、 お元気になられたみたいだから─── ジュリアス様は守護聖を退任して下界に降りてすぐ流行の病でこの世 を去った。俺がジュリアス様の降りた所に派遣され、 (少しでも良いから逢いたい・・・) と言う思いには勝てず。いけない事だと知りながら、ジュリアス様に 逢いに行った・・・。だが、俺がそこで見たものは何もない、ただの草 原だった・・。あの御方の残り香さえも感じさせない・・・広い草原だ った・・。 その後、どう聖地に帰ってきたのかも解らない・・。気が 付いたら私邸の寝室にいた。情けないほど衣服は乱れ、泥を弾いたのだ ろうスラックスの裾は汚れていた。頭は酷く痛み割れるようだ・・・。 取りあえずシャワーを浴びてさっぱりしようとコックをひねり熱い湯を 浴びた・・・。全身を突き刺すような湯を・・・。その熱い湯はすべて を洗い流そうと思い切り強く出したのに瞳から流れ落ちる涙は何時まで も・・・何時までも洗い流せなかった・・・。 ・・・コンコン 誰かがオスカーの部屋の扉をノックした・・。 「・・誰だ。」 「私です。リュミエールです・・・オスカー」 遠慮がちな声がした。 「お前か、入ればいい・・」 「失礼します」 部屋に滑り込むようにして、リュミエールは入ってきた。 「帰ってきたと、執事の方から聞いたので・・いかがでしたか?」 「・・別にコレと言って何も無かったが・・・」 リュミエールはその言葉を聞くと春の海の色をした瞳を細めて悲しそう に微笑んだ。 「・・・オスカー。ジュリアス様には会えたのですか?」 リュミエールの突然の質問にオスカーは動揺をした。 「・・・あっ、あぁ。御元気だった」 「それは嘘です。ジュリアス様はもう亡くなっていたのではありませんか」 「・・・っな」 自分でも分かっていた事なのに第三者から言われると現実という重力が オスカーにのし掛かる。 「ジュリアス様は亡くなられていたのでしょう。病ですか?身体には気を 付けろと、自分の身体も管理できないようでは守護聖失格だと仰られて いたのに。あの御方は他の者には厳しいのにご自分には甘くていらっしゃ る・・・。それでは、死んでも当然ですね。御自分の招いた・・・」 パシッと乾いた音がオスカーの部屋に響いた・・。 「幾らお前でもそれ以上言ってみろっ。許さないからなっ」 リュミエールは頭を項垂れている・・・表情は青銀の髪で見えないが口 元には笑みを浮かべていた。 「少しはすっきりしましたか・・・?オスカー・・」 「リュミエール?」 リュミエールはオスカーを怒らせるような事をワザと言ったのだった・ ・。少しでもオスカーの心が晴れればと・・・。ワザと怒らせてそれで自 分を殴らせた・・・。それに、気付いたオスカーはそれまで怒りに震えて いた身体を緩ませた。 「オスカー、なぜ嘘を吐くのですか・・。私には貴方の心が分かるのです よ・・・。貴方の心は今悲しみで引き裂かれて、止まることのない血を 流しているではありませんか・・・」 「・・・リュミエール 」 「悲しみは心に閉じこめると今よりも、もっと貴方を苛む事でしょう・・ ・。オスカー、その悲しみを私に仰って下さい・・・。私は貴方が苦し む所を見たくはありません・・どうか、オスカー・・」 リュミエールはまるで自分がその当事者のように今にも泣き出しそうな 顔をしている・・。 「なぜ、お前は俺の事をそんなに・・・」 「貴方をずっと見て来たから・・・」 「・・・・・」 「貴方を聖地のに来た時から、ずっと見て来たから・・・」 「・・・・・」 「貴方の事が好きだから・・・。貴方の事を愛しているから・・・」 「なっ・・・・」 リュミエールの突然の告白に唖然とするオスカー。 「オスカー。貴方の心の空虚を埋めるのは、私では駄目ですか・・・」 オスカーは暫く考えた後、リュミエールをしっかりと真っ正面から見据 えて言った。リュミエールはその答えを知っていた。知っていて聞いた・ ・・。例え自分が傷つきオスカーとの同胞と言う関係が崩れようとも、今、 目の前で愛しき者を失ってその痛みに悲鳴を上げている心をこれ以上見て はいられなかった・・・・。ずるいとは思っていた・・・。けど、この告 白でオスカーの心をしめているジュリアスへの想いを少しは追い出せるか と思っていた。だが、帰ってきた答えは最初にリュミエールが思っていた のと同じ答え・・・。決して、私はジュリアス様には勝てない・・・・。 「・・・・リュミエール。すまない、お前の心には答えてやれやれない。」 「オスカー・・・。これからの長い時間、幾重の星を掴む可能性もありま せんか・・・・。」 リュミエールはその春の海色の瞳からキラキラとまるで宝石のように輝 く涙を流していた。オスカーは余りにも透映した心に胸を打たれ、同情で もリュミエールの気持ちに答えるべきかと言う想いが刹那に過ぎったが、 自分の心を偽ることは出来ない。そんなことをすればリュミエールにも失 礼ではないかと思った。ここで、きっぱりと断ち切ることもリュミエール のためだと思った。 「あぁ、万に一つでもない・・・。リュミエール、俺は生涯ジュリアス様 を愛し続けるだろう・・・。愛しそして俺が命を絶つその瞬間もジュリ アス様のことを思うだろう・・・。だから、リュミエール俺のことは諦 めてくれ・・・分かったら少し独りになりたい。出て行ってれくれない か」 オスカーは自分の言葉で傷つくリュミエールの顔をこれ以上見てはいら れなくて、背を向ける。 「・・・・分かりました。」 リュミエールの声は涙で震えていた。だが、オスカーは振り返ることは 無く静かにリュミエールが部屋を出ていくのを待っていた。 ・・・・・・パタン。 オスカーは心臓の上を力の限り握りしめる。 「・・・ジュリアス様っ。」 オスカーの答えに頬を伝う涙を止めることが出来ないまま、リュミエール は自分の館へと帰っていた。私室に入ると月の光が部屋を照らしていた。そ の光に人の影が映る。 「・・・・そこにいるのはどなたですか」 「私だよ、リュミエール」 いつもはふざけた感じで自分の名を呼ぶオリヴィエが今は声の調子を下げ て静かに自分の名を呼んだ。 「どうしたのですか?オリヴィエ。」 「・・・そろそろ、アンタが泣いて帰ってくる頃じゃ無いかと思ってね・・ ・・。」 オリヴィエは守護聖の中で唯一オスカーへの想いを知っていた。 「バカだね。アンタもあんなヤツ好きになっちゃってさ・・・」 「・・・・・・」 「あんなヤツ好きになっちゃったら、これからずっと死んだ人間に嫉妬して 生きて行かなきゃなんないんだよ。死んだ人間に嫉妬してその想いは何処 にもぶつけられないで・・・。そんなの可哀想じゃないアンタが・・・・。」 オリヴィエはリュミエールの私室のテラスに繋がる窓に背を凭れさせなが ら腕を組み月を見つめながら言った。 「いえ・・・。そんなことはありません」 「そう?オスカーの心はジュリアスでいっぱいなんだよ。アンタの想いなん て入る隙間なんて無いんだよ。いいのそれでも本当に・・・・。」 オリヴィエは瞳だけリュミエールに向けてそう言った。ダーク・ブルーの 瞳が月の光に反射されて透明になっていた。 「・・・えぇ。オスカーがジュリアス様を想う心ごと全て好きなのです。」 リュミエールははっきりと自分の意志を伝えた。何かに挑むような意志の 強い瞳からは涙が一筋流れる。 「辛いよ・・・。いいの?」 「はい」 「そう、じゃあもう言うことは無いわね。あとで(苦しい)とか泣き言言っ ても、もう知らないからね。」 オリヴィエは肩を預けていた窓から離れるとドアに向かって歩き出した。 そして、リュミエールと擦れ違うその時に・・・・ 「・・・・がんばんなさいよ。リュミちゃん」 その口調は何時もと同じふざけた口調だったけれど、リュミエールは本当 にオリヴィエが自分を心配し励ましてくれていることが分かった・・・。 「ありがとう。・・・オリヴィエ」 オリヴィエは背を向けたまま手をヒラヒラとさせて出ていってしまった。 オスカー私は例え貴方に拒絶されようともこの想いだけは無かったことに など出来ません。私はこれからも貴方を想うでしょう。ずっと・・・・・ず っと。例え貴方が振り向いてくれなくても私は・・・・オスカー貴方を愛し 続けるでしょう。私の心が貴方への思いで切り裂かれようと構いません。た だ、私が1つ想うことは・・・・。 せめて貴方の傷ついた心を吹く風が凛と冷える寒空の風ではなく・・・・・。 春の暖かさのこもる風は無理だとしても・・・・。 せめて秋の涼やかな少し暖かい風であることを・・・・・。 私は願います・・・。
●勿忘草・・・果たしてこの花言葉「私を忘れないいで・・・」は誰が 誰に言ったのでしょう?死んでしまったジュリアス?それともオ スカー?自分の思いを無かったことにして欲しくはないリュミエ ールでしょうか・・・・。それは、皆さまのお心のままに・・・・。 はぁ・・・それにしてもまたもやシリアス(汗)ごめんなさい<(_ _)> 悲劇王の私にはこれしかないの(T▽T)最近、ほのぼのばかり書 いていたからその反動が・・・・(汗)BACK 勿忘草の花言葉は「私を忘れないで、真実の愛」と言います。別名ではミオソティス・ Forget Me Not。 ここで、勿忘草その名前のいわれとエピソードを・・・。 『ドイツの伝説で昔、1人の若い騎士が恋人の乙女とドナウ河の岸辺を散歩していました。 その時乙女は、1束の美しい青い花が河の中を流れさって行くのを見付け、それを欲しが ったので、誇り高い騎士は気軽に靴を脱ぎ直ぐに河に飛び込みました。しかし、流れは思っ たよりも速く、鎧を着ていた騎士は、花を摘み取った後、身体の自由を失い、力尽きて流れ に巻き込まれてしまったのです。 騎士は自分の最後の時が来たのを悟り、力を振り絞って、その花を河辺の恋人の乙女の足 下に投げ、「私を忘れないで」と叫ぶと流れに吸い込まれてしまいました。 乙女は約束を守り、生涯その花を離さず、騎士を忘れずに髪に飾り続けたそうです』