この世で楽しいこと
今日もジュリアス様はすこぶる機嫌が悪い。その理由は世捨て人・・・おっと失礼。その理由
は闇の守護聖・クラヴィス様のせいだ。今日期限の書類がまだ出来ていないと言う。
・・・・・・ポキッ。
あぁ、またペン先が折れてしまったようだ。
「ジュリアス様、気分転換にでも外に出られたらいかがですか?」
・・・・・ポキッ。
「なんだっ!この軟弱なペン先は!もっと根性を見せぬかっ!!こんな容易く折れてしまった
のでは創られた意味がないではないか!自分のやるべきことを全うせずに壊れてしまうな
ど物として悲しくはないのか!」
ジュリアス様は相当キてしまっているらしい。
「・・・・ジュリアス様、聴いていらっしゃいましたか?」
「・・・・なんだ?オスカー」
今初めて聞きましたと言う風にジュリアス様は言う。
「ですから、外の空気でも吸って気分転換などなさったらいかがですか?」
「むっ、だがまだ執務が残っているのだ」
「しかしながら、迅速かつ効率よく執務を遂行するには穏やかな精神も必要だと思われますが・・・」
俺は内心ビクビクしながらそう進言した。ジュリアス様は俯いたまま黙っておられたが暫
くすると小さな声でこういった。
「・・・・分かった。」
「雑務は私がしておきますので・・・・」
「頼んだぞ、オスカー」
仕事中毒のジュリアス様は最後まで名残惜しそうに執務机の上の書類を見ながら執務室を
後にした・・・。
「オスカーにああ言われてしまうとは私ももう少ししっかりせねばならぬな・・・」
そう呟きながらジュリアスは宮殿近くの森の中を歩いていた。木々は瑞々しく茂り微風に
揺れ踊っている。落ちる木の葉はクルクルと回り優雅に大地に降りていた・・・・。この様な風
景を見ると不思議と心が安まっていくのを感じる。ジュリアスはスウッと息を吸い込み吐き
出す、冷たい空気が心を冷やしてとても気持ちが良い。手近な木の根を見付け腰を下ろし空
を見上げる。
「とても、綺麗な空だな・・・・」
木漏れ日を受けながら瞳を閉じるとぽかぽかと陽が照らす・・・・。ジュリアスは暫しその陽を
感じ耽っていたのだが突如、その陽が陰るのを感じた。何事かと思い瞳を開くと視線の先に
は自分を覗き込むクラヴィスの顔があった。
「クックラヴィスッ!?」
ジュリアスは驚いて声を上げたがクラヴィスはそれを意に介さず己の懐に手を入れた。
(刺されるっ!!)
と一瞬本気で思ったが、クラヴィスの懐から出てきた物を見てホッと胸を撫で下ろした。
「お前の望んでいた書類だ。受け取れ・・・・」
「あっあぁ・・・・、こんなに早く出来るのなら早くすませればいいものを・・・だらだら後に伸ば
すからこうなるのだぞ・・・。頼まれたことは直ぐにしろ!わかっ・・・・」
「ジュリアス・・・」
いきなりクラヴィスはジュリアスの言葉を遮ったかと思うとジュリアスの手を握りしめた。
「私の事を考えていてくれて有り難く思う。幼い頃からお前には迷惑をかけどうしで詫びの
言葉も見あたらない・・・そこで私からお前に渡したいものがあるのだ・・・・コレを・・・」
先程書類を出したと同じ懐に手を入れるとそこからシャラっと言う鎖の音と共に美しいア
メジストのペンダントが現れた。
「これは私の水晶球の様に不思議な力があるのだ・・・。そして私の力も込めてある。何時でも
何処でもお前が呼べば私はこの水晶球を通じて知ることが出来る。何処にいてもお前の処
へ駆けつけよう・・・」
「クラヴィス・・・・」
ジュリアスは今迄世話ばかり焼いていたクラヴィスに言われると今迄の自分の苦労も報わ
れたのだと胸が熱くなるのを感じた。
「今迄そなたには酷いことを言ってすまなかったな・・・。これもそなたの事を思ってのことだ
すまなかった・・・・」
「気にするな、分かっている・・・・。ではな・・・」
クラヴィスはそう言うと背を向けて去っていった。感動に胸を熱くしていたジュリアスは
気が付かずにいた。クラヴィスの口元がうっすらと笑みを浮かべていたことに・・・・。
それから数時間後・・・・クラヴィスも消えた森の中でジュリアスはアメジストのペンダントを
出し見つめていた。
「今さっきのことだが、クライヴィスを呼んでみよう・・・・」
そう意を決して大きく息を吸うと
「・・・・・クラヴィス?」
と一言だけ言ってみた。
「クラヴィス・・・・」
もう一度だけ言ってみた。・・・・・1時間後。
「来ぬではないかぁーっ!クラヴィスめっ騙しおって、あやつの言葉に少しでもホロと来
た私が馬鹿だったのだぁぁーっ!」
誰も来ない森の中で独り叫ぶジュリアス様の怒号は森の中にいる動物たちを森の外に追い
やり木々の木の葉を散らしたそうです・・・。
一方クラヴィス様は・・・・・?
「クッ・・・・・・クククッ」
水晶球を見ながらしてやったりと執務机に突っ伏して笑いを堪えていた。水晶球の中のジュ
リアスは顔を真っ赤にして地団駄を踏んで悔しがっていた・・・。
「何時も世話になっている礼だ・・・・ジュリアス・・・クククッ」
クラヴィス様の不気味な笑いは執務室から漏れ、近くを通る人を恐怖に戦かせたと言う。
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