かたつむり・・・・・・
カタツムリ・・・・・・
私がカタツムリなら良かった・・・・・・
かたつむり
聖地に滅多に降らない雨を見ながらクラヴィスはふとジュリアスが昔言ったこ
とを思い出していた。あれはまだ2人が13歳の頃の事だった・・・。
「私がカタツムリだったら良かったのにな・・・・・クラヴィス・・・・ごめん」
遠い目をしてジュリアスがこう言った。その日はクラヴィスの誕生日、昼は守
護聖の皆とクラヴィスの誕生日を祝い夜はクラヴィスの邸でジュリアスとクラヴ
ィス2人だけの誕生会をしていた。
ジュリアスは子供用の軽いお酒を少しだけ飲みグラスを静かに置くといきなり
ポツリと「カタツムリなら・・・」と突拍子もないことを言ったのだった。
「一体何を言い出すのかと思ったら・・・ジュリアス?なんでそんなことを思う?
カタツムリになりたいだなんて・・・」
ジュリアスなら綺麗な馬とか鳥とかそんなものになりたい・・・と言うと思って
いたのにいきなりカタツムリとは一体どうしたんだろう
「わっ、私が・・・・カタツムリならっ・・・ひっく・・・・・」
細い肩をヒックヒックと振るわせてジュリアスは泣き出してしまった。何か泣
かすような事を言ってしまったのだろうかとクラヴィスは焦りポケットに入って
いたハンカチを取り出してぽろぽろと頬を伝う涙を優しく撫でるように拭く
「何かボク悪いこと言った?」
「・・・・・うっ・・・・ひっく・・・・っ」
クラヴィスが優しく接する度にジュリアスの涙は止まることを知らず次から次
へと流れる
(どうしよう・・・ボクが喋るとジュリアスが余計泣いちゃうみたいだ)
どうしたらよいのかクラヴィスは戸惑いながらもジュリアスの隣に座り涙を拭
ってやる。
ボクはこの春恋をした。
いや、前から恋はしていた・・・
だけど余りにも近くにいたから気が付かなかったんだ
ボクがジュリアスを【好き】だって事に・・・・
何時も隣に居たジュリアス。
何かがあると何時も庇ってくれたジュリアス。
野良犬に噛まれそうになった時も
ボクの目の前に立ちふさがって犬を追いやってくれたジュリアス。
何て勇気があるんだろうと
その時思ったんだけれど・・・・
でも・・・・
でも・・・・・
「無事で良かったな」
振り返ったジュリアスの瞳には涙が一杯溜まっていて
足はガクガクと震えていた・・・・。
本当は恐かったジュリアス。
本当は泣きたかったジュリアス。
ボクはその時、ジュリアスを守りたいと思った。
何時も側にいたいと思った。
その事をジュリアスに伝えたら、ジュリアスも同じだと答えてくれて天にも昇
る思いだった。それから2人は何時も一緒。週末にはお泊まり、執務の行き帰り
は一緒に帰って、お休みの日には遊びに行く・・・・。そんな事を毎日、毎日繰り返
した・・・それを見ていた大人の守護聖は
「まるで恋人同士みたいだな」
そう言って笑っていた。
僕たちの本当の関係も知らずに・・・・・
「ねぇ、ジュリアス?なんでそんなに悲しいの?」
「ひっく・・・・ひっ」
「僕じゃジュリアスの役には立たない?」
「・・・・っち、違う・・・・そうじゃない・・・・・そうじゃないんだ。クラヴィス・・・
わっ、私がクラヴィスの役に立たないのだ・・・・」
「僕の役に立たない?どう言うこと?」
ジュリアスの華奢な肩を掴み正面を向かせるとジュリアスの印象的な瞳が
眼に入った・・・。涙でうるうると潤んでいる
「他の守護聖に言われた、“あんなに仲が良いのも今の内ですね。2人もや
がて恋をしてお互いの存在が1番では無くなる日が来るのでしょうね”っ
て・・・・普通の人はそうだって・・・・恋をして、愛して、結婚して、子供が産
まれるって・・・・クラヴィス、子供が産まれない私たちは普通じゃ無いのか?」
「ちがう・・・違うよ。ジュリアス・・・僕は女の子だから好きとかじゃなくて・・・。
ジュリアスだから・・・・ジュリアスだから好きになったんだ。普通とか普通
じゃないとか関係ない。」
震える細い肩をぎゅっと抱きしめた。
「ボクはジュリアスが好きなんだから・・・・」
「うん・・・・うん・・・・。」
ジュリアスが落ち着くまでクラヴィスは抱きしめ続けた。大分たって落ち
着いてきたのかジュリアスがそっと身体を離した。
「落ち着いた?」
「・・・・・・うん、ありがとう」
「それで?何で【カタツムリ】なの?」
「・・・・あの・・・・」
ジュリアスの話はこうだった。
カタツムリは性別が無く愛し合ったもの同士で子孫を残す事が出来る・・・。
「あぁ、その話?ボクも聞いたことがあるよ・・・。」
その話は最近、他の大人の守護聖から聞いた。カタツムリは出会ったもの
同士で性別の関係なく子孫を残すことが出来ると・・・でも、ジュリアスの言
葉にはまだ足りないものがある・・・
「ねぇ、ジュリアスカタツムリって言うのは子孫を残そうとする時に雌雄が
決まる訳じゃなくて・・・ノロノロ歩きでしょう?だから巡り会うチャンス
が少ないんだってだからやっと出会えた相手が同性だったら子孫を残せず
に【カタツムリ】は絶滅しちゃうでしょ?
だからね、運良く巡り会えたもの同士で子孫を残そうとするんだ。【カ
タツムリ】は雌雄両方の器官を備えていて、2匹とも産卵することが出来
るんだよ。ジュリアスはボクが子供産んだらどうする?」
マタニティ姿のクラヴィス・・・想像しただけでも、ちょっと変かも
「ちょっとそれは嫌かも知れない」
「でしょ?別に子供が出来なくってもいいじゃない。異性同士で結婚して子
供が出来ない夫婦は普通じゃないの?違うでしょ?」
「・・・・うん」
「独りを想って結婚しない人も居る。異性と結婚する人もいれば同性と結婚
する人も居る・・・勿論結婚しない人も居るよ・・・。その人達は普通じゃない
なんて言えないでしょ?」
「うん・・・・うん・・・・」
「ボクが例えカタツムリでもジュリアスじゃなきゃボクは嫌だ。」
「うん・・・」
例えカタツムリでもどれだけ長い時間が掛かってやっと出会えた仲間でも
ジュリアスじゃなきゃ嫌だ。
幼い頃の思い出にしては余りにも鮮明に覚えている。私たちにこの話をした
守護聖も人に言えない恋をしていたのかも知れない・・・。今となっては知る統
べもないが・・・・。
今日は私の誕生日だとジュリアスは朝も早くから張り切っていた。先程まで
降っていた雨は何時しか止み雲の隙間から細い青空が見える・・・・もう少しした
らジュリアスが息を切らしてやってくるだろう・・・・
今年も抱え切れぬほどの花束を抱えて
「クラヴィス、おめでとう!」
とまるで我が事のように嬉しそうに
息を弾ませて・・・・・・・
そうしたら言ってやろう
昔聞いた【カタツムリ】の話を覚えているかと・・・・・
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