恋わすれの貝
目の前には大きく広がる空の色。打ち寄せる波。開放的な気分。だが、私の連れ合いは
そうはいかないらしい・・・・。
無理矢理もぎ取った休暇でジュリアスを連れ攫うようにこの惑星へと連れてきた。その
せいか先程からしゃがみ込んで話しかけようとも返事をしない。
「・・・・ジュリアス、いい加減機嫌を直したらどうだ。そんなに気分を悪くしたところで今
直ぐ聖地には帰れないのだぞ。ここである程度の日にちを消化しなければ聖地には帰れ
ぬ。・・・・ジュリアス・・・聞いているのか?」
はぁ、困った者だ。この頑固者は・・・何時になったらこのへそ曲がりが治るものやら・・
「そう言う気持ちで帰る日を待つよりも、気分を変えて楽しんだらどうだ・・・」
全く、どうしたものやら・・・
「クラヴィス!」
何だ!いきなり大きな声を出すなど。いよいよ雷が落ちるのか・・・
ジュリアスは立ち上がりくるりと振り返ると掌のものをクラヴィスに見せた
「見てくれ、クラヴィス!この貝殻の綺麗なことといったら、まるで桜の様だぞ!」
ジュリアスは上気させてクラヴィスに嬉しそうに貝殻を見せる・・・
「何だ。お前は怒っていたのではないのか?」
「怒っている?誰がだ・・・。そう言えばそなたは先程から人の後ろでブツブツと何かを
言っていたようだが・・・何かあるのか?」
「・・・・・いや、何でもない」
クラヴィスはがっくりと肩を落とす。なんせジュリアスが怒っていると思ってクラヴィ
スは随分長いこと説得をしていたのにそれがすべて無駄だったとは・・・「怒っていないなら
早く言ってくれ!」と言う気分のクラヴィスは少し眉を寄せ気分が静まる思いだが目の前
のジュリアスの子供のようなはしゃぎ様を見てしまえばそんな気分も何処へと消えてしま
う・・・・
「・・・・クラヴィス?どうしたのだ?」
静かに微笑むクラヴィスにジュリアスは不思議に思って聞く・・・
「いや、別に何でもないが。確かに美しい貝殻なジュリアス」
「そうであろう!」
この様な子供なジュリアスは聖地ではお目にかかれない。子供の時代を子供として過ごせ
なかったせいかジュリアスはこの様な些細なことでも嬉しそうにはしゃぐ・・・それも2人き
りの時だけだが・・・
「来て良かったか?ジュリアス」
ただ、単純に思ったことをジュリアスに聞いてみる。
「あぁ、はじめはこんなところに連れ来られてどうしようかと思ったが、来て良かった!
この肌を焼くようなチリチリとした陽差しも聖地では味わえないからな。気候は随分と
暑いが気持ちが良い」
「そうか。良かったな、だが気を付けろよお前の肌はこの陽差しには絶えられぬだろうか
らな・・・余り日に当たるな」
「分かっている。それよりもクラヴィス、この貝殻を持ち帰ろうと思うのだ」
そう言ってジュリアスは手の中の貝殻を見た。
「止めておけ、縁起でもない」
「何故だ!この様に綺麗な貝殻が・・・」
「お前は貝殻に伝わる話を知らないな・・・。」
「何だ?それは・・・」
「そうか、では教えてやろう。貝殻というのは2つで1つなのだ。貝が開くときに必要な
蝶番と言う物があってなこれは対の貝でしか絶対に合わないのだ。だがら、この様な貝
殻1つだけを見付けて同じ種類の貝殻のもう片方を合わせようとしても絶対に合わない
のだ・・・・分かるか?」
「あぁ、貝は2つの物が1つに重なる。それがあらかじめ対のものではなければ貝は合わ
ないのだろう?」
「そうだ。だから、対のない貝殻を持つと恋を忘れられるというのだ・・・」
「何だ。それは・・・・」
ジュリアスは興味津々でクラヴィスの語ることに耳を傾ける。波は静かにうち寄せては
2人に触れてはならないと引いて行く・・・
「己の対を忘れたものだから、己の大事なものを忘れたものだから、恋を忘れられると言
うのだ・・・・」
クラヴィスの真剣な顔にジュリアスは溜まらなくなって・・・
「・・・・っぷ」
「何がおかしいのだ。ジュリアス」
「あはは・・・そなたがそんなことを言うとは思わなかったから。おかしくて」
「心外だな、笑われるとは・・・私の心は繊細なのだぞ」
少し戯けてクラヴィスは言う
「それはすまなかったな、クラヴィス。では、対になっている貝を2人で探そう・・・それで
その貝を2人で分けて持とう、そうすれば対を忘れた貝にはならぬ。」
「あぁ、そうだな・・・・」
「ほらっ、クラヴィス!ぼーっとしていないで探すぞ!」
ジュリアスはクラヴィスを置いて貝を探し始めた。
「あぁ・・・・分かった」
クラヴィスもジュリアスを追いかけて貝を探し始めた。対である2人は対である貝を求
めて・・・決して離れてはならない対を求めて夏の海を2人捜し続ける・・・・。2人の休暇は始
まったばかり
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だから何だって?仰る・・・私だって聞きたいですよぉーっ!(爆)