DAHLIA 5
ダリア
             下級生が目撃したと言う生物室に急ぐ、息も髪も乱れようが気にはしない・・・。嫌、             気にして等いられない。暗く長い廊下がもどかしい・・・何故こんなにも精一杯走っ             ているのに回りの風景が変わるのが遅いと感じるのだろう・・・。まるでスローモー             ションの様に景色が流れていく・・・・。              目的の生物室に着くと中からは明かりが漏れていた。しかも、生物室の扉は閉             められていたのだ・・・女子校と言うだけあってあらぬ誤解を受けぬように生徒が             1人だろうと大勢だろうと生徒がいる時は必ず扉は開いているのだ。それなのに             扉が開いていない・・・・。クラヴィスは自分の全身の血の気が引いていくのが分か             る。これだけの長い廊下を走ってきたというのに体が冷たい・・・。クラヴィスは             震える指先を扉のノブへと伸ばし扉を勢い良く開いた・・・。中には・・・・              「・・・・クラヴィス?」              コーヒーの良い香とチーズケーキの甘い香りに包まれたジュリアスがきょとん             とこちらを見ていた。              「おいおい、ノックをしないで入ってくるなんて少し不躾じゃないのか?」              アリオスは長い足を組んで言った。直ぐ隣にはジュリアスがいてソファーの背             の部分に手を回していてその光景はアリオスがジュリアスの肩を抱いているよう             だった・・・・              「その事は失礼いたしましたが、アリオス先生も非常識なのでは?」                     珍しくオスカーがクラヴィスを助けた。               「そうよ、こんな日も暮れているのに女生徒と教室でティータイム?しかも                扉を閉めたままなんて・・・変な誤解を受けても仕方のないことだと思うけ                ど。」              オリヴィエが強い口調でアリオスに言い渡す。               「怖いな、ジュリアスのお友達は・・・皆に変な誤解を受けてしまったから今日                はお終いだ。ジュリアス・・・またな。」               「あの・・・・」               「ケーキ美味かったぞ・・・・」               「ありがとうございます。」              そう言ってアリオスにニッコリと微笑むジュリアスの手をクラヴィスは思い切             り引っ張ると勢い良く歩き出す・・・・                「無事で良かったわ、ジュリアスさん」               「ほんとよ、こんな遅い時間まで先生と2人きりだなんて・・・・」              オスカーとオリヴィエが一歩前にいるクラヴィスと並び歩きながら言う・・・。               「ぶっ、無事って・・・。それにアリオス先生は教師なのよ・・2人きりとかそ                んな・・・」              「先生に失礼よ」とジュリアスは言う。この何も知らない純真なジュリアスに              側にいた皆は腹立たしさえ覚える               「・・・・ジュリアス」              とても冷たい声でクラヴィスが言う               「皆、凄く貴女のことを心配していたのよ・・・何か言う事があるんじゃないの?」               「あっ・・・・」              クラヴィスのこの言葉で先程生物室に皆が入って来た時のことを思い出す。と             ても必死な顔をしていた・・・。何時もお調子者のオリヴィエが勝ち気なオスカーが             涼しい風のようなクラヴィスがあんな顔をするとは思わなかった・・・。本当に本当              に心配そうな顔をしていた・・・・               「ごめんなさい、皆私の事を心配して来てくれたのよね・・・ありがとう」              クラヴィスに腕を引っ張られたままのジュリアスは頭を下げようとしたものの             それは叶わず瞳で訴えかけるだけだがどうやらオリヴィエとオスカーには通じた             ようであるだがクラヴィスは依然として無表情のまま視線を合わせようとしない。               「クラヴィス・・・・・?」               「じゃあね、私たちの部屋はこっちだから・・・・」              ジュリアスが痛さに顔を顰めようが気にせずぐいっと力強く腕を握り自分たち             の部屋に入る。振り回され手を離されたジュリアスは掴まれた手をさすり月光を             背にして立っているクラヴィスの顔を見る・・・・。               「クラヴィス・・・・?一体どうしたの・・・・」               「別にどうもしていないけれど・・・」               「嘘よ!何か怒っているもの」              クラヴィスの表情を見て心を探ろうとするが月光の光を逆に浴びているクラヴィ             スの顔は闇に溶け込んで見えない・・・・               「別に怒ってなんかいないわよ・・・・。怒っているとしたら私自身に怒ってい                るわ・・」               「私自身?何故クラヴィスが自分自身に怒らなくてはならないの?何もして                いないじゃない・・・逆に私を心配して来てくれたわ。それなのに・・・」               「違う、違うのジュリアス。」                              激しく頭を振るクラヴィスをジュリアスは次の言葉が出るまでただじっと待っ              ていた。               「リュミエールから聞いたわ・・・ケーキのこと・・・」               「・・・・あっ」               「ごめんなさい、折角作ってくれたのに・・・」               「いいの気にしないでクラヴィス。私は貴女にそんな思いをさせるために作っ                たんじゃないもの・・・それに私の作ったケーキよりも【キャメリア】のチー                ズケーキの方が美味しいに決まっているもの・・・逆にクラヴィスに食べて貰                わないで良かったと思っているわ」                クラヴィスに気を遣わせまいとニッコリと微笑んだつもりが儚げな微笑み               になっていた・・・・               「本当に良いのよクラヴィス・・・気にしないでね。私昨日のお礼がしたくて                ケーキを作ったの・・・馬鹿よね。昨日もお礼は言ったんだけど・・・もっとちゃ                んとお礼がしたかったの・・・言葉で言えばいいのに変なことをするから貴女                に辛い思いをさせてしまっ・・・・て・・・・」                自分のしたことを「馬鹿なことをして・・・」と自分に気を遣うジュリアスを               クラヴィスは抱きしめた。恋愛?信愛?友情?同情?そんなものは考えずただ               目の前にいるジュリアスを抱きしめたいと思ったのだ・・・。               「クラヴィス?どうしたの・・・・」               「ごめんね、ジュリアス。もう少しこのままでいさせてくれる?」               「いいけれど・・・本当に大丈夫なの?」               「えぇ・・・・」                抱きしめたジュリアスの身体は同じ女性だというのうにクラヴィスよりも               ずっとずっと細かった。大好きな金糸の髪はシャンプーの良い香がして首筋               に顔を埋めると柑橘系の爽やかで何処か甘い香がしてくる・・・。もっと薫りた               いと鼻先を近づけるとくすぐったいのかジュリアスが身を捩る・・・。                先程のアリオスの行動がフラッシュバックする。ソファーの背に腕を伸ばし               まるでジュリアスの肩を抱いているような格好をしている2人・・・。何時かジ               ュリアスも恋人とこんな風に抱き合う時が来るだろうか・・・・。そう考えると               胸のあたりがチクリと痛んだ。                「ねぇ・・・ジュリアス」               「ん?なぁに・・・・」               「ずっと私と一緒にいてくれるかしら・・・・」               「何よ急に・・・」               「良いから、答えて欲しいの」               「いっ、痛いわ。クラヴィス・・・」                 自分でも知らずの内に手に力が入る・・・。顔も正体もわかならいジュリアス               の未来の相手に嫉妬している。自分が嫉妬しても仕方のないことだと分かっ               てはいてもジュリアスを取られてしまいそうで怖い・・・。ジュリアスにはずっ               と一緒にいて欲しい・・・・               「クラヴィスは大切な友達だもの・・・ずっと一緒にいるわ」                クラヴィスは自分の望んでいた通りの答えが返ってきたというのにジュリ               アスの“友達”と言う言葉にまた胸が軋む・・・。一体どうしたというのだろう               自分の心はほんの少し前まではジュリアスに“友達”と言われることが何よ               りも嬉しかったのに・・・今はこんなにも苦しい。               「・・・・クラヴィス?」                何時までも何も言わないクラヴィスを不審に思いジュリアスは首筋に居る               クラヴィスに呼びかける。               「ありがとう・・・ジュリアス」                心が歪んで悲鳴を上げようともクラヴィスは一言だけジュリアスに言葉を               返した。「ずっと一緒にいる」この言葉を言ってくれたことは本当に嬉しか               ったから・・・。だが、クラヴィスは眩しい夜の月に薄雲がかかったような淋し               さを感じていた・・・・。                込み上げてくる涙を必死に止めた                本当はね・・・・・・                本当はね・・・・・・                何が言いたいんだろう                それでも何度も頭の中で本当はねって                  何度も何度も繰り返す                その次の言葉が見つからなくて                考えれば考えるほど涙は止まらなくなる・・・・                口に出せばきっと終わってしまうから                だから頭の中で繰り返す                この腕を解いて貴女の顔を見た時に                何時もと同じ笑顔で日常を過ごして行こう・・・・                優しい貴女の心の雫を一つでも零さぬように                溢れてしまわぬように                この月光の中を私は独りで歩いていこう・・・                                  でも・・・・・                本当はね。                本当は・・・・・                ジュリアス・・・貴女の事が・・・・   
END
           くっっ!終わったは終わったが訳の分からない終わり方で        すみません。私が一番好きな終わり方にしてしまいました(汗)        久し振りです。こういう終わり方は・・・最近シリアスを書い        ていなかったせいでしょうか(-_-)         途中、何度も裏に行きそうになったんですが何とか踏ん張っ        て表に留まりました。ふぅ〜(汗)最初の始まりから考えると        まさかこんな終わりになるとは思ってもみませんでしたが・・・。        (最初はギャグで行こうと思っていた)それがこのシリアスな        終わり・・・。何が起こるか分かりません!