クラヴィス・・・そなたは何が好きなのだ?
Calla
心を通わせる相手の好きなような人になりたいと思うのは誰もが思うことでこれは
クラヴィスとジュリアスが付き合って間もない頃のお話・・・。
「リュミエール!リュミエール!クラヴィスの好きなものは何だろうか?」
リュミエールの私室を訪ねるなりリュミエールが音楽を紡いでいた手を止めた・・・。
「ジュリアス様・・・。どうなさったのですか、その様に慌てて・・・」
「今夜、クラヴィスの館に呼ばれたのだ・・・。手ぶらなのは不敬だろ?それなのに持っ
て行くものが決まらないのだ。」
クラヴィスとジュリアスの仲を知るリュミエールにクラヴィスの好きなものを聞く
のは何時ものことだった。それまで、絶対に相容れぬ者として過ごしてきた二人はそ
れがある日突然崩れたのだ。それからは、思いを通わせる者として二人はルヴァとリ
ュミエール以外には内緒で付き合っているのだ。それまでは、お互いの事など我関せ
ずと言った具合で過ごしてきたジュリアスにとっては自分を長年思っていてくれるク
ラヴィスのことなど何も知らずして過ごしてきたのだ・・・。そう言うわけでジュリアス
はクラヴィスのことを良く知るリュミエールのところに何かあると訪ねていっている
のだった・・・。
「クラヴィス様の館にですか・・・。それでは、カラーなどはいかがでしょう?」
「カラー?何なのだその花は・・・。」
小首を傾げキョトンと紺碧の瞳をまるめてジュリアス様は訪ねていらっしゃいまし
た。なんと愛らしい方でしょう・・・。執務をしていらっしゃる時とはまるで違うので
すね。私はあの時のジュリアス様が全てだと思っておりました。でも、それは違った
のですね私はジュリアス様の表面しか見ていなかったと言うことなのですね。
「リュミエール?」
「え?あぁ、申し訳ありません。カラーですか?カラーはえぇっと確かこの本にあっ
たはずなのですが・・・。あぁ、ありましたこの花ですよ。ジュリアス様・・・」
リュミエールが本の中の花の写真を指さすとジュリアスがリュミエールの隣に腰を
降ろし指を差したところを覗き込んだジュリアスの髪がふわりとリュミエールの頬を
掠める・・・。
(・・・・ジュリアス様。なんて優雅な香りなのでしょう・・・。そうですね・・・春風にフワリ
と舞っている花びらのような・・・)
「白い花なのだな・・。うん、なんだかクラヴィスに良く似合いそうな花だ。これにする
リュミエール。」
「ジュリアス様・・・このカラーの花の1枚の大きな花びらに見えるのは、仏炎苞と言う
苞で、実際の花はこの本では見えませんがその苞に包まれている黄色状のものです。」
「そうなのか・・・」
「えぇ・・・。まるで、クラヴィス様とジュリアス様見たいですね。クラヴィス様がジュ
リアス様を包み込んでいるようです。」
そう言うとジュリアスは真っ赤になって顔を上げると目の前にリュミエールの顔があ
りまともに目が合ってしまう。どうしようも出来ずジュリアスが目を離せず暫く二人は
見つめ合うとリュミエールが微笑んでその空気を壊した。
「ジュリアス様。マルセルのところに花を分けてもらいましょう」
「う・・うむ。」
ジュリアスの白い細い手を引いて立たせるとリュミエールは自分の私邸を後にした。
コンコン・・・・。クラヴィスの私室の扉が叩かれた。
「・・・なんだ?入れ」
すると闇の館の執事が音もなく静かに入ってきた。
「光の守護聖・ジュリアス様がいらっしゃいました。」
「あぁ、分かった。支度は整っているな・・・もうよい。お前達は下がるがいい・・・。」
「はい、かしこまりました・・・。」
クラヴィスの館の執事は己のぶんを弁えているのだろう。完結的に必要なことを纏め
て言うと深く一礼し去っていった。暫くすると再び私室の扉が叩かれた。
「・・・クラヴィス。私だ・・・・・」
「あぁ、開いている入るがいい・・・。」
そろっと扉が開くと金色の光を携えてジュリアスが入ってきた。クラヴィスはその様子
に思わず顔が緩むのを感じた・・・。ジュリアスは部屋に入ってきても恥ずかしそうに下を向
いて黙っている。
「ジュリアス?どうした?」
おずおずと手を前に出す。手には花束が握られていた。
「・・・・これをそなたにと思って」
「カラーか、お前が選んでくれたのか?」
「・・・・・」
「どうしたのだ?ジュリアス・・・・」
ジュリアスは黙ったままクラヴィスの瞳を見つめるばかり・・・・
「実は・・・・その・・・リュミエールに選んでもらったのだ・・・・」
「リュミエール?そうか・・・そうだろうな(この花ではな・・・)」
「私はまだそなたの好きなものが良く分からないのだ。だから何時も側にいるリュミエー
ルに聞けば分かると思って教えを請うたのだ・・・。すまない・・・クラヴィス。そなたの好き
なものが分からなくて・・・何時かは私の選んだものをそなたにあげたい・・・。」
クラヴィスはそのジュリアスの純情なその姿に顔を綻ばせると愛おしさにその身体を抱
きしめた。ジュリアスの身体は何時もは守護聖の重厚なる正装でその細くしなやかな身体
を隠しているが抱きしめるとその細さがよくわかる。強く力を込めると細いその腰は折れ
てしまいそうにも思えた。
「ジュリアス・・・お前は随分と可愛いことを言ってくれる。私の好きなものはお前とお前の
好きなものだ・・・。」
「・・・・クラヴィス」
白く闇に輝く月光を背にクラヴィスはジュリアスの耳朶に唇を寄せながら言葉を続けた。
「ジュリアス、私を愛していてくれるなら願いを聞いてはくれぬか?」
「・・・・願い?」
「あぁ、これからはあまり他の男と二人きりで会うな、たとえ守護聖であろうと・・・。」
「?・・・オスカーもだめなのか?」
ジュリアスは何時も自分の補佐をしてくれているオスカーもダメなのか聞いたクラヴィス
は薄い唇をスッと微笑ませた。
「オスカーは構わぬ・・・。(どうせあやつにはそんな度胸はないだろう・・。見ているだけが精
一杯のやつだからな・・・)」
「そうか・・・良かった。オスカーがいなければ執務が滞ってしまう・・」
(ほらな。オスカーお前はそこまでのヤツなのだ・・・ッフ)
とクラヴィスは心の中でオスカーに毒づくとジュリアスの顔を正面から見据えた。
「ジュリアス、何時でもどこにいても私のことだけを考えていてくれ・・・」
「あぁ、クラヴィスも私のことだけを見て欲しい・・・」
ふふっと二人は微笑むと啄むような口付けを交わした。それはだんだんと激しくなり白々と
輝く月の光に溶け込んでいった・・・。
翌日の闇の執務室には相変わらず長椅子に寝そべっているクラヴィスとハープを爪弾くリュミ
エールがいたそれは何時ものことであったが、一つ違っていたことがあった・・・それはリュミエー
ルのハープを心静やかに聞いているはずのクラヴィスの機嫌が悪かったこと。
「リュミエール、そなた昨日の花はどういう意味だ・・・?」
「どういう意味と言いますと・・・・」
リュミエールはビィンとハープを爪弾く手を止めた。
「ジュリアスに何故あの花を持たせた・・・・」
「あぁ・・・カラーですね。それはクラヴィス様がお好きだろうと思いまして・・・・」
優しい慈愛に満ちた微笑みでクラヴィスに言う・・・。
「私だけではない。お前の気持ちも入っているだろう・・・・。」
「えぇ・・・そうですね。」
「あれは花言葉など知らなかったのだろう。あの花の意味を知っていたら決して私には持ってこ
ないだろうからな・・・。」
「その様でしたね。それでもジュリアス様のあの時のお顔はとても美しく、愛らしいかったです
よ・・・クラヴィス様の為に色々と考えているあのお姿は・・・」
リュミエールはその時を思い出すかのようにうっとりとした表情をしている。その表情を見て
自分の知らないジュリアスを知っているリュミエールが疎ましかった。
「黙れ。リュミエール・・・」
「お怒りになるのですか・・・ジュリアス様はクラヴィス様のものではないでしょうに・・・。ジュリ
アス様に心内を話すのがクラヴィス様の方が早かっただけのこと私にだってジュリアス様を愛
する権利はあるのですよ。」
今迄の慈愛に満ちた微笑みを消し、射抜くような瞳をしてクラヴィスを見据えた。
「人の気持ちなど変わるものですよ。クラヴィス様・・・。ジュリアス様だって何時までもクラヴィ
ス様を愛するとは限りませんよ。ジュリアス様が私を愛する時が来るかも知れませんよ・・・。ふ
ふ・・・」
「ジュリアスは私のものだ・・・。私以外は愛さぬ。それを覚えておくがいい。」
クラヴィスはテーブルの上に重ねてあったタロットカードを払ったカードが宙を舞ってクラヴ
ィスとリュミエールの間にヒラヒラと滑り込んでくる。二人は以前のように心静やかな一時を過
ごす関係ではなくなった。ただ同じ1人を愛する者として戦いの序曲が始まろうとしていた・・・。
「クラヴィス様、せいぜい今の心安やかな一時をお過ごしになって下さいませ・・・。一時ですが・・・
ふふ」
「さっさと立ち去らぬか!」
「怖いですね。クラヴィス様はその様な恐ろしい顔をしているとジュリアス様に嫌われてしまい
ますよ・・・ふふっ私の命があるうちに失礼いたします。」
そう言うとリュミエールは不敵な笑みを浮かべるとクラヴィスの執務室を後にした。
「リュミエール・・・お前などにジュリアスはやらぬ。あれとは宿命と魂を分け合った対なのだ・・。
お前など私達の間に入る隙間もないのだ・・・それを覚えておくといい。私達の絆を甘く見るな」
クラヴィスは長椅子に身体を沈めると珍しく帳から太陽の光がクラヴィスの顔を照らした。そ
の光に手を翳し力強く握り絞めた。
「なぁ・・・・ジュリアス。」
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「Calla」はカラーのことで、ギリシャ語のカロス(美)が語源で、沼の浮き草の
一種の名前が、何時しかカラーの名前となったそうです。花言葉は「乙女のしとやか
さ、清浄」です。